OUT

OUT(アウト)
OUT(アウト)
(桐野夏生/講談社)
【コメント】
コンビニ弁当の製造工場で深夜に働く主婦達が主人公、という設定がまずスゴい。
それぞれの事情を抱えて、労働条件の厳しい夜間パートの仕事をこなす中年の女性達が、侘しくも淡々とした日常から、殺人事件の関係者として非日常の出来事に巻き込まれていく過程の心理描写がとても細かい。
主婦4人のキャラクター設定がとても現実味があり、どの人も実在していそうな存在感がある。そういう彼女達が、半ば偶発的に、半ばは自発的に事件に関わっていってしまうのは、貧しさや自堕落さや嫉妬といった、生活の中に潜む暗い要素が原因であり、それによって抗いようもなく犯罪に引きずり込まれていく様子が克明に描かれている。
「OUT」というのは、いつ終わるとも知れない日常からの「脱却」を求める彼女達の願いを表しているのだと思う。その糸口を得るためには、死体を解体するという作業すら厭わないという強い渇きが、主人公の雅子の心の奥底にはある。
灰色でくすんだ印象の舞台設定と同様に、雅子という人物も、余計なものが削ぎ落とされた、合理的で直截的な性格として描かれていて、自分の頭と価値観で考えて冷静に行動する姿がいい。
ミステリーというよりも心理サスペンスという感じで、読み始めたら止まらない吸引力がある作品。
【名言】
雅子の頭の中では地図が広げられ、今後の予定があれこれと組み立てられていることだろう。雅子にとって、このことは完全な業務なのだとヨシエは感じとった。それも、失敗を許されない業務。(p.143)