今この世界を生きているあなたのためのサイエンス


今この世界を生きているあなたのためのサイエンス(全2巻)(リチャード・A.ムラー/楽工社)

かなり面白かった。
産業廃棄物処理問題や温暖化問題やテロリスト対策といったような、日常生活よりも遥かに大きなテーマについて、もし実際に自分自身が国家レベルの政策を担当することになった時にどう考えるべきか、という視点で解説がされている。
実際にカリフォルニア大学バークレー校で、文科系学生向けに開講された人気授業をベースにしたものということで、サンデル教授の授業「JUSTICE」の、自然科学版といった趣がある。
といっても、受講生との質疑応答形式を取っているわけではなく、通常のオーソドックスな授業のパターンではあるのだけれど、道徳論や善悪といった、個人的な価値観について触れることはほとんどなく、科学的な事実やデータのみを提示して、その是非については、それを考える人の判断に委ねるという、極めて客観的なスタンスを貫いているところが面白い。
この本では特に、一般的に誤認がされやすい環境問題のテーマについて詳しく取り上げていて、たとえば「地球温暖化は、二酸化炭素排出量の増加が原因である」といった、定説とされているような事柄を、それが本当に事実であるのかどうか根本から問い直している。
常識をいったん括弧に入れて、客観的データと確実なロジックのみを手がかりに、自分自身の頭で考えるというアプローチを徹底している点で、とても学ぶところが大きい本だった。
【名言】
ハチドリは、羽を動かして飛ぶための膨大なエネルギーを、ほんのわずかなハチミツをすするだけでまかなっています。ハチミツには、間違いなく、ハチドリが花の前で滞空するために激しく羽を動かすその運動に必要な量を上回るエネルギーがあるのです。食品は、ガソリン並にすぐれたエネルギー源なのです。(1巻p.75)
石炭から石油を製造する技術力があるのですから、一バレルの石油に50ドル出せるうちは、これから数百年はその値段で買える液体燃料が枯渇することはありません。ハバート・ピークは、フィッシャー・トロプシュ法という技術力を考慮に入れてはいません。(1巻p.110)
チェルノブイリ事故については、くわしく説明することにします。というのは、政策に影響を与えたいと思う人たちが、よくこの事故の話を持ち出すからです。この事故に関する事実は、過大にも過小にも見せかけることができますから、事実を知っていれば、きっと役に立ちます。(1巻p.127)
広島型原爆の製造で難しいのは、爆弾としての設計ではありません。この「砲身型」の構造はひじょうに単純ですから、おそらく小さなテロ組織でもつくれるでしょう。難しいのは、純粋なウラン235を手に入れることです。天然ウランには、除去するのがひじょうに難しい不純物が含まれています。ウランを精製するには、通常、数十億ドルの費用と、先端技術を扱える第一級の科学者が必要になります。(1巻p.164)
もっとも効率の高いタイプの増殖炉では、低速の中性子ではなく、高速中性子を使います。そのため、「高速増殖炉」と呼ばれます。しかし、高速中性子を使うと、原子炉の固有の物理的安全性が失われます。高速増殖炉では、連鎖反応の制御ができなくなる可能性があり、たんなるメルトダウンではなく、原子爆弾のように本当に爆発するかもしれないのです。(1巻p.206)
廃棄物の貯蔵の危険と地下にもともと埋まっているウランの危険とを比較するだけでも、問題の解決はずいぶん楽になってきます。地中に天然ウランが残ったままのほうがもっと危険なのに、どうしてそのことは考えないのでしょうか。(1巻p.225)
劣化ウランが砲弾の材料としてすぐれているのは、装甲を貫通するために役立つ二つの特性があります。まずその一つは、鉛のほぼ二倍の密度があることです。もう一つは、金属の装甲にぶつかったとき、飛び散ったりしないで、先鋭化して侵徹する性質があることです。(1巻p.232)
核融合制御は、いつかは実現するでしょう。いつの日かきっと、主要なエネルギー源になるでしょう。ただ、いまのところ、それはまだ20年以上先のことになりそうです。(もっとも、何十年も前からずっとそう言われつづけてきて、いまだに実現のめどが立っていません)(1巻p.247)
ロケットは、宇宙に行く方法としては、ずいぶんひどいものです。一般的に、ロケットはエネルギーの96パーセントをむだにします。わたしたちがロケットを使うのは、たんに、軌道に乗るために必要な秒速5マイル(8キロ)という速度に達する方法として、ロケット以上によいものがほかにないからです。(2巻p.40)
ステルスの基本的な発想は、形状の緻密な設計です。ナイトホークの本当にすぐれている点は、機体が平らな表面で構成されていながら、なおかつ戦闘機としての飛行性能をも備えていることです。より新型のステルス機になると、平面にすることが必要条件ではなくなってきます。たとえ、表面が湾曲していても、正確にしかるべき設計をすれば、信号が発信源に反射しないようにできるのです。(2巻p.79)
実際には、南極の氷の融解は、地球温暖化から予測されることを立証するものではなく、否定するものなのです。地球温暖化は、海水の蒸発量を増大させるからです。この増えた水蒸気は、南極まで達すると、雪になります。というのは、地球が温暖化していても、いまのように摂氏0.6程度の上昇では、南極のほとんどの地域の気温は、氷点下よりはるかに低いからです。(2巻p.118)
多くの人たちは、重量のある車のほうが搭乗者の身を守ってくれると思っています。ある意味では、当たっています。重量のある車に乗っていれば、ほかの車と衝突したとき、相手が重傷を負っても、自分は軽傷ですむかもしれません。しかし逆に、すべての車を軽量化すれば、すべての人の安全性が高められることになります。誰かがこの共通の合意に反して、重量のある車に乗れば、本人だけはほかの人よりも安全になりますが、全体の安全性は低下します。車のサイズを規制する法律がなければ、市場では車が重量化する傾向にあります。(2巻p.190)

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