80年代初めの空気を見事に切り取った糸井重里の対談集「話せばわかるか」

[amazonjs asin=”4041538041″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”話せばわかるか―糸井重里対談集 (角川文庫 (5908))”]
糸井重里氏の対談集で、書かれたのは1981~1982年頃だから、もう随分前の時代のものだ。
この時、著者は30代前半。会話の内容や言葉自体、とても若い感じがあるし、話題としても、その時代を感じさせる話しばかりだった。

時代を象徴する豪華な顔ぶれ

対談相手のラインナップもまたスゴくて、井上陽水、高橋留美子、村上春樹、ビートたけし、江川卓、などなど、やっぱり時代の違いを感じさせる。

特に決まったテーマがない、雑談的な対談であるからこそであると思うけれど、その時代の空気を見事に切り取っている感じがある。現在と30年前とで何が変わって、何が変わっていないか、ということを見るのに、これほどうってつけのテキストは他にないだろうと思う。
ビートたけしは、すでにこの時「映画を撮りたい」という希望を語っていて、そういう、その時でしか聞けない言葉があちこちあるというのも、今になって読んでみると面白い。

既に絶版になっているので、古本でしか手に入らないのが残念なところ。
こういう本は、その時の旬の人についてリアルタイムで読みたいという需要がほとんどだろうから、再版の見込みはおそらくないだろうけれど、この、今となっては非常にレアな対談相手たちに興味がある人には非常に価値がある本だろうと思う。

名言

この本を自分が書くに至ったのは、たまたま大学の教師をやっていたからというだけで、その内容をすでに知っているやつはたくさんいるに違いない、と。コトバっていうのはそんなもんなんです。あとから説明するためについてくる。(栗本慎一郎)(p.14)

ただ凄いことはたしかでね、ケネディが暗殺された日の東スポ1面の見出しが、「銀髪鬼、場外に悶絶!」って出てるワケ。オレはこれ見たとき、これこそ「ジャンル」っていうもんだなと思った。つまり一大事が違うのね。(村松友視)(p.42)

考えるのが面倒くさいから、その場でやっちゃおうと。アドリブって怠け者の産物みたいなもんだよ。(タモリ)(p.100)

ボクが住んでたのは、ホント山の中でしょう。太陽が出るのが10時ごろで、3時ごろには山かげに沈んじゃうんですよね。子供のころから、太陽は10時に出て3時に沈むものと思ってる。それを親父は、太陽は6時ごろ出て6時ごろ沈むもんなんだ、というわけです。だから、そういう広い所に行ってみないかと誘われて・・。「お前、ここは空がすごい狭いからね、このままいったら、気持ちの大きい人間になれないよ」なんてね。で、その気になった。(江川卓)(p.125)

私にとって、漫画を描くということは一種の浄化作用みたいなもんですから。ですから、遊ぶ必要はまったくないんです。漫画を描くときは、ご飯の心配もせずに漫画を描く。漫画のためにマンガを描いているようなところがあるんです。(高橋留美子)(p.149)

私の場合、結局、本当に漫画をやりはじめたなァというのが、プロになってからでした。プロの原稿を作りながら、プロになろうとした・・というとおかしいんですが、そんな感じでしたね。あの、力をためてからデビューするとかいうでしょう。あれ、私、おかしいと思うんですよ。やっぱり、現場で力を磨いていかないと、うまくならないんじゃないかしら・・。(高橋留美子)(p.151)

ボクは物書きですから、コトバていうのは相手に通じることが先決問題だと思ってるんです。で、コトバが通じるためには、新しくなくちゃダメです。新しくするためにはコトバとの緊張関係を喋る人間が持ってなくちゃならない。(野坂昭如)(p.189)

ボクは、テレビは見ない、早寝、早起きする、ジョギングする、なるべく浮気はしない・・。(笑)こういうのはね、結局、形式でしかないと思ってる。だけど、形式こそ重要だと思ってるんだ。(村上春樹)(p.205)

図書館じゃないと読めない本ってあるよね。「ステンドグラスの作り方」とかさ。買う気にはなれないけど、図書館だと読んじゃう。「東京裁判」全記録とかね。まあ、ボクは、図書館と貸しレコード屋とゲームセンターと、この三角形の中で生きているようなものだね。(村上春樹)(p.215)

目次

1981.6.12 栗本慎一郎と新宿・牛やで話した
1981.7.6 村松友視と新宿・牛やで話した
1981.9.15 ビートたけしと六本木・瀬里奈で話した
1981.10.6 井上陽水と六本木・瀬里奈で話した
1982.2.12 タモリと虎の門・ざくろで話した
1981.4.17 坂田明と赤坂・日本コロンビアで話した
1981.8.25 江川卓と六本木・瀬里奈で話した
1981.11.28 矢野顕子と六本木・瀬里奈で話した
1981.10.12 高橋留美子と神保町・寿々喜で話した
1981.6.22 谷岡ヤスジと赤坂・維新号で話した
1981.12.22 野坂昭如と銀座・岡半で話した
1982.2.22 村上春樹と六本木・瀬里奈で話した
1982.4.26 川崎徹と六本木・瀬里奈で話した
1983.3.29 三浦雅士と乃木坂・東京糸井重里事務所で話した

[amazonjs asin=”4041538041″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”話せばわかるか―糸井重里対談集 (角川文庫 (5908))”]