下町ロケット


下町ロケット(池井戸潤/小学館)

大田区の小さい町工場を舞台にした、技術屋の誇りというテーマは面白い。佃社長の、技術に賭ける意気込みが熱くて良かった。
銀行の人間とか、帝国重工の富山っていう男とか、かなり露骨な悪役が出てきて、いくらなんでもここまでわかりやすい嫌なやつはいないだろうという部分があり、その点はちょっと現実離れしていて、マンガ的だと思った。
中小企業が正面から大企業に立ち向かっていくという、痛快さは好き。
いろいろな出来事を詰め込みすぎてしまっていて、たとえば、弁護士の神谷という人などかなりカッコよかったのに、途中からぷっつりと登場しなくなってしまって、後につながっていかないというような、エピソードが細切れになっている感じはあった。
だから、話しが一続きになっているというよりも、なんか小さな話しが飛び飛びにあらわれていて、その分、クライマックスに至るまでの盛り上がり方が中途半端な感じで、後半は、期待していたよりもあっけなく終わってしまった気がする。
ヒネりはなく、至極まっとうな書き方なので、どことなく物足りなさは感じてしまうけれど、これは、小説に何を求めるかという好みの問題だろうと思う。

【名言】
世間に名の知れた上場企業の看板は、それだけで絶対的な信用がある。いくら中小企業が背伸びしたところで、こと社会的信用という観点からそれに対抗することは難しい。
法廷では裁判官の心証として大企業が有利だという話もショッキングだが、実は法廷などまだマシなほうで、本当に不公平なのは実社会のほうなのだ。この世の中では圧倒的に大企業が有利である。(p.51)

「勘弁してほしいのはこっちだ、支店長」
佃はいった。「あんたたちから投げつけられた言葉や態度は、忘れようにも忘れられないんだよ。傷つけたほうは簡単に忘れても、傷つけられたほうは忘れられない。同じ人間として、私はあんたをまるで信用できないんだ。」(p.172)

佃製作所には、なにかがある。きらりと光るなにかを、持っている。
どんな会社も設立当初から大会社であるはずはない。ソニーしかり。ホンダしかり。土壇場で資金繰りにあえいだことさえある中小企業が、誰もが認める一流企業にのしあがったのには理由がある。
会社は小さくても一流の技術があり、それを支える人間たちの情熱がある。
あの工場に漂う香気は、たとえば財前の父の会社には決してないものであった。(p.214)