ウェブ時代をゆく

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)
ウェブ時代をゆく(梅田望夫/筑摩書房)

これからの未来にとても大きな希望を持たせてくれる、前向きな本だった。
筆者の前著の「ウェブ進化論」が現状分析に重点を置いていたのに対して、この「ウェブ時代をゆく」は、この環境下でどのような働き方をするべきなのか、という極めて実践的な内容になっている。
福沢諭吉が「西洋事情」と対にして「学問のすすめ」を書いたとすれば、梅田氏は「ウェブ進化論」と対にして本書を書いたのだといえる。
将棋棋士の羽生さんが言う、「学習の高速道路理論」は、「インターネットによって誰もがものすごいスピードで、ある地点までは到達することが容易になったけれども、その先には大渋滞が待ち構えている」というものだった。
そのような時代に、梅田氏が提唱するのは、修練を重ねてその大渋滞を真っ向から突破する「高く険しい道」を突き進むか、高速道路を下りて前人未到の「けもの道」を歩くか、という2つの選択だ。
それぞれの選択について、今の時代には、「個人の力」や「小さなコミュニティの力」でどこまでのことが可能かということが、具体例を豊富に交えて語られている。
また、本書では、ベンチャー企業や中小企業で働くメリットだけでなく、大企業のメリットも語られていて、どういう人材が大企業に向いているか、ということも詳しく考察されていて、その点も、多くの人に客観的に自分の生き方を考える材料となるだろうと思う。
良い本というのは、ただ現状の観察に終始する本ではなく、読者が今何をすればいいかを示唆し、実際に行動を起こすモチベーションを与えてくれる本だ。その意味で、この本は、まれに見る良書だった。


【名言】
検索エンジンの構築過程で「広告費の価格設定」における「根拠のなさ」というビジネス上の大鉱脈に、グーグルはぶち当たった。依頼「存在理由」をスケール大きく追求していくための原資を得るべく、広告産業の覇権を希求するようになった。そう考えるべきなのである。(p.42)
私は「オープンソース・プロジェクトも、成功するものと失敗するものがあるよね。その差は何だと思う」と尋ねた。「成功するかどうかは、人生をうずめているやつが一人いるかどうかですね」と彼は端的に答えた。(p.66)
私も、外部からの投資を受けず、公開や企業売却も全く考えず、会社は自分が「好きなこと」を「やりたいように続けていく」ための枠組みであって、それ以上でもそれ以下でもない。「こうすれば成長できるかもしれない機会」という可能性は、スモールビジネス・オーナーにとってそれほど重要な要素ではないのである。(p.75)
荒唐無稽ながら私はホームズにおける何がいったい自分へ強い信号を発しているのかを徹底的に自問してみることにした。その結果見えてきた自分の志向性とは、「ある専門性が人から頼りにされていて、人からの依頼で何かが始まり急に忙しくなるが、依頼がないときは徹底的に暇であること」だった。(p.122)
極端に言えば、学生に向かって「おい、誰かきちんとこの講義を録音・撮影して、ネットで公開しておいてくれ」と言うだけで、収録は学生が手持ちの機器に、公開は「iTunes U」のようなプラットフォームに「ただ乗り」できる。世界中の学校が講義を収録して公開しようという意思さえ持てば、MITのように大きなコストをかけずとも、瞬時に公開内容をネット配信できるインフラが整ったということなのである。(p.150)