四季 春

四季 春 (講談社文庫)
四季 春(森博嗣/講談社)

森博嗣氏の小説の中で、非常にインパクトのあるキャラクターとして現れた真賀田四季が、主役として登場する「春夏秋冬」四部作の1作目。時系列としては過去にあたる作品で、作中、真賀田四季の年齢はなんと6歳。
彼女は、代表作でもあり、著者の推理小説シリーズ最初の作品でもある「すべてがFになる」からの登場なので、元々、最強のバイプレーヤーといってもいいくらいの人物だ。
この本単体ではほとんど意味をなさず、ミステリとしても完成度はあまり高くない。ただ、過去の、森博嗣氏の推理小説シリーズの総集編的な位置づけとなっていて、その視点からは、非常によく出来た作品だと思った。
いわばファンサービス的な作品で、完成度の高い元ネタがあってこそ成立する、他の作品でいえば「百器徒然袋」「逆襲のシャア」「キン肉マンII世」のようなポジションの内容になっている。
森博嗣氏の本を読むにあたって、この本は決して最初に読んではいけない本で、最後の最後に読むべき作品だ。これから森博嗣氏の小説を読む人には、そこに到るまでの長い長い楽しみが残っているということで、それはとても羨ましいことだ。
【名言】
私が想像しているよりも、人間の感情コントロールは回路が多そう。何のためにこんなストラクチャになったのかしら。どうして、一つの身体に一つの精神を据えて、着実なコントロール系を構築しなかったのだろう。生きるためには、そちらのほうが絶対に都合が良いのに。無駄が多いというのか、あまりにも多くの条件に対応できるように設計がされているのに、何故か、周囲には、そんなに複雑で多数の条件が存在していない。それが不思議。(p.97)
私が自由を得るためには、どうしても周囲の犠牲は必要だと思います。前進するためには、同じだけのものを後方へ放り出す必要があるでしょう?(p.122)
生きていることが、彼女の自由を束縛している、という意味を僕はようやく納得した。少女の小さなその身体が、これほどまでに強力で巨大なシステムを支えているという不思議な構図、そしてその矛盾した構造。でも、それだからこそ、四季は四季なのであって、僕にとっては、それがこのうえなく愛おしい。(p.239)