マイノリティ・リポート

マイノリティ・リポート 特別編
マイノリティ・リポート

2054年のワシントンDCを舞台にした、近未来SF。
その世界では、完璧な精度で未来の犯罪を事前に察知する予知者「プリコグ」によって、将来の犯罪者を摘み取ることで、前代未聞の低犯罪発生率が実現している。
原作者は、とんでもない未来世界を創りあげたものだと思う。これは、実現すれば究極の治安維持システムといえる。
予知した未来によって、犯罪が発生する前に未然に防ぐ、という行為は、それ自体が矛盾をはらんでいる。未然に防がれた犯罪は、防がれた時点で、もはや犯罪ではないからだ。
これは、タイムトラベルもののSFでは必ず起こるパラドックスで、その点が突っ込まれることは当然原作者も予測していたはずなのだけれども、それでも敢えて、この未来世界の構築に挑戦したことは称賛に値すると思う。
この世界では、プリコグの予知能力が完璧であるために、この矛盾を抱えていても、容認されてしまっているのだ。しかし実は、その予知も100%の精度ではない。ものすごく低い確率で、プリコグが誤った予測をすることがある。
その犯罪報告は「マイノリティ・リポート」と呼ばれるが、その存在は、一般に知れれば大混乱になってしまうために、極秘になっている。ある一つのマイノリティ・リポートをきっかけにして、この統治国家の真の姿が明らかになるという、非常にドラマチックなストーリー。
ストーリーも、主演のトム・クルーズも良いけれど、この映画は、なんといっても、未来都市の描写が素晴らしい。
網膜センサーによって個人の位置をリアルタイムで識別して、その動向をすべて把握する管理システム。それと連動して、過去の購入履歴を元に自動で始まる広告動画。
amazonが今のまま進化し続けると、最終的にはこういう世界に行きつくのだろう。そして、捜査官であるアンダーソンが操るコンピュータ画面の、超斬新で未来的なインタフェース。スピルバーグが撮ると、近未来もここまでリアルになるのかと驚かされる。
この、青みがかった、陰鬱で透明な空気感は人によって好き嫌いが分かれるところと思うけれど、自分としては、とても好きなテイストの映画だった。
■マイノリティ・リポート(2002年)
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル
監督:スティーブン・スピルバーグ