ダメな議論


ダメな議論(飯田泰之/筑摩書房)

国民的常識とされていることも含めて、メディアで報道されている情報には、論理的に正しくない「ダメ」な議論がたくさん紛れているので、情報を鵜呑みにしないようにしましょう、という本。
その主張はとても納得がいくし、参考になる部分もあるのだけれど、あまり新しい気づきを与えてくれる内容ではなかった。
著者は、ダメな議論を判定する基準として、下の5つを挙げている。
1)定義の誤解・失敗はないか。
2)無内容又は反証不可能な言説ではないか。
3)難解な理論の不安定な結論となっていないか。
4)単純なデータ観察で否定されないか。
5)比喩と例え話に支えられた主張ではないか。
が、この基準自体が、意味がよくわからない。ダメな文の例がいくつも出されているのだけれど、その「どこがダメなのか」という説明が、イマイチ納得できないこともあった。
そもそも、「ダメ」と判定する基準が厳しいので、このチェックでいくと、雑誌や新聞に載るような短い記事などはほとんど「ダメ」と判断されてしまうような気がする。どういう文であれば「ダメではない」のかという説明も欲しかった。
良かった点は、著者の専門が経済学ということがあり、経済的なトピックでよく見かけられる、「日本の財政破綻」のような意見を取り上げて、そのどこに誤りがあるのかということを説明しているところだ。
政治や経済の話しは、つい、新聞の記事をそのまま信用してしまうけれど、そういう中に、どのようにしてウソが紛れ込んでいるかということと、何故そういうウソを受け入れてしまうのかについての解説は、とても面白かった。
【名言】
経済・社会・政治に関する言説は、自分に無関係ではないけれども、それらに関する知識がないと生活できなくなるというほどのものではありません。したがって、正しい理解をしたほうが得ではあるけれども、さまざまな言説が正しいか否かをしっかりと理解することで得られる利益や、誤り・無用・有害な解釈や提言を受け入れることによる不利益に比べ、その正否を精査するための「費用」の方が高くつくケースが多いのです。(p.15)
定義が明確でない日常用語をキーワードにした論説では、アンケート調査の結果がしばしば援用されます。しかし、アンケート調査は多くの問題を抱えています。最大の問題は、ほとんどのアンケート調査では「本当のことを答えるインセンティブ」が保証されていないことにあります。(p.124)