21世紀の国富論


21世紀の国富論(原丈人/平凡社)

これまで、日本の株式市場はどんどんアメリカのやり方を取り入れてきていたけれど、なんでも真似すればいいってものじゃなかったんだということが、よくわかった。
短期間のうちにリストラやIRを使った小手先技で株価をつりあげながら、ストックオプションを行使して売り逃げる「CEOゴロ」が横行するというのは、ひどい話しだ。今の、会社の業績をROEに偏重して判断するという風潮が、産業の発展を阻害しているという意見はとても説得力があって、共感出来る。
筆者は、ベンチャーキャピタルのプロとしての視点から、かなり大きなビジョンで日本経済の行くべき先についての提言をしている。消費税や法人税を引き下げて、個人の資金から投資に金が流れるようにする、などというのは、選挙前の政治家が唱えればただの理想論だけれど、この原丈人氏の場合は、きちんとその背後にある問題点や改善策まで含めた上で語っているので、本当に現実味がある。
特に会社経営については、MBAやアメリカ流のビジネススクールの論理をありがたがって、アメリカ式はいいものだという空気がなんとなく流れているけれど、それに真っ向から反論をして、それに替わるべき進み先をロジカルに提示出来る人というのは、とても貴重だと思う。かなりわかりやすく、タメになる本だった。
【名言】
ネットバブルの崩壊後、世界中で多くの人々が願っているのは、コンピュータを中心としたIT産業が再びリーディング産業として復活することでしょう。しかし、私はその可能性はかぎりなく低いと考えています。
今、世界経済にとって大切なことは、このITバブル崩壊をもたらした背景にある資本主義の構造や、産業の質的な変換の意味を知ることです。(p.27)
短期的に株価を上げることが上手な経営者は一般にリストラ、資産圧縮などによるROEの改善やIRが上手なタイプであって、彼らだけが短期間にストックオプションを行使し、巨額のリターンを手にできるのです。これでは、従業員もやる気を失います。日本ではストックオプションの長所ばかりが紹介されがちですが、企業の没落を加速する最大要因になるという悪い側面も認識すべきでしょう。(p.64)
中長期にわたる経営を考える上で大切な意味をもつ内部留保が「モノ言う株主」にとってどうでもよいのは、彼らが本当の意味での企業価値などは考慮していないからです。「企業価値の最大化」という主張は隠れみのにすぎず、実際は短期の売り抜けが最大の目的です。(p.72)
大きなコア技術としては、19世紀に「動力革命」といわれた内燃機関(エンジン)があります。この発明は、コア発明の典型です。エンジンの発明は、機関車をはじめ自動車、船舶、飛行機などの分野で新しいアプリケーション・テクノロジーの開発を促しました。そして、自動車やディーゼル機関車、双発機などの新しい乗り物の登場が、物流やインフラ、そしてサービス業にまで発展していったのです。(p.115)
「先進国」のなかで所得税、法人税、住民税などがもっとも低く、しかも豊かな国。それは決して政治家が口だけで約束する「絵に描いた餅」ではありません。そのためにやらなければならないこと、その道筋ははっきりと見えているのです。(p.250)