
幸福論(アラン/白水社)
アランの唱える「幸福論」は、どこまでも実際的で、楽観的だ。
幸福とは、ただ待って手に入るものでは決してなく、常に、積極的な行動によって近づくことが出来るものだと信じて疑わない。そして、真の喜びは、楽な生活の中ではなく、苦しみの中にこそあるのだと、このことも何度も繰り返し述べている。その意味で、アランという人は、単に幸福を求める夢想家というよりは、常にとことんまで現実に照らして物事を考えた行動家であったのだと思う。
人は、自分の想像によって自分自身を苦しめていることが非常に多いので、とにかく物事は楽観的に考えたほうがいい。そういう考えがベースにあるので、この本はどの章をとっても驚くほど前向きだ。
「こうすればいい」という具体的な指示を示してはいないけれども、ただじっとしているのではなく、何か行動として表現をしなければという気持ちに、この本はさせる。一つの章につき、2~3ページ程度の短文にまとめられているので、読みやすいのもいいところだ。
» 2007 » 12月のブログ記事
空手の「板割り」を体験させてもらった。
板を両手で持っている人がいて、その板を手のひらで打つ。
結構厚い板で、2cmくらいある。
見た感じでは、とても平手で割れるようには見えない。
それを、割らせてもらうことになった。
重要なことは「絶対に割れる、と確信すること」だと言われた。
中途半端にやって割れないのが一番痛い。とても痛い。だから、やるからには必ず割るつもりで打たないといけない、と言われた。
チャンスは一回きりで、やり直しはない、とも言われた。
自分がやる前に、一人、割った人がいた。
その瞬間に「ああ、本当にあんな厚い板でも割れるものなのか」と思った。これはとても大きなことで、そのおかげで「やれば割れるものなんだ」と信じることが出来た。
打つのはコワかったけれど、やらざるを得ない状況なので、やるしかない。
打ってみたら、割れた。
後から考えても、割れたということがイマイチ実感出来ない。
ただ、打つ瞬間には確かに、ただ「割る」ことしか考えていなかった。
一瞬でも「ムリだろう」と思っていたら、割れなかったんだろうと思う。
今回の場合、自分の前に、実際に割れた前例があったことが心理的にとても大きかった。
今後、同じような場面があった時に、たとえ前例がなかったとしても「出来る」と信じこめるかどうかが重要なことなんだというのは、大きな気づきだった。
そして、そういう時というのはたいてい、やはり「チャンスは一回きりで、やり直しはない」という場面なんだろうと思う。

「メトロに乗って」のミュージカルを観た。
舞台の中で一番シビれたのは、物語の非常に重要なキーとなる、アムールという人物が登場するシーンだった。
階段の上にアムールが登場した瞬間、舞台の空気や色あいや音楽が変わって、世界が一瞬にして変わったのだということがわかる。
ある人物が自分の人生の中に登場したことによって、明らかに自分の中の何かが変容したのだ。
たとえば三国志や水滸伝のような小説で、一番面白くてワクワクするのは、時代の英雄と英雄とが出会った瞬間だ。
その人物との出会いによって、いったい何が起こるのかはその時点ではお互いにわからない。ただ、その出会いの瞬間の前と後では、はっきりと世界の色が変わる。
人生というのは、そういう、後から振り返れば運命としか呼べないような出会いによって彩られているのだろうと思う。
■音楽座ミュージカル「メトロに乗って」
http://www.ongakuza-musical.com/sakuhin/metro_archive.php
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ピザというのは、店によってだいぶその特徴が変わる食べ物だと思う。
生地が薄い厚いという違いもあるし、外周部分がもちもちしているかパリッとしているかという違いもある。焼き加減も、トマトソースの味も、結構店によって変わってくる。
店による違いの分だけ、食べる人の好みも色々で、もちもち派もいればパリッと派もいたりする。
今まで、他の人に「ここのピザは旨い」とおススメされても、ピザの好みがその人と根本的に違う場合、イマイチな感想になってしまうことが多くて、なかなかドンピシャのピザ屋はなかったのだけれど、ついに「これがストライクゾーンです」というピザ屋に出会った。
それが、「Salvatore Cuomo Japan」。
気に入りポイントは、
・ピザ生地が薄い
・外周の持ち手の部分も薄くてパリッとしている
・トマトソースとチーズが抜群に旨い
・辛味オイルを好みでかけられる
・カプレーゼやキノコなどの前菜が旨い
・カフェラテが旨い
チェーン店なので、都内各地に支店があるというのも素晴らしい。
自由が丘にも支店が出来てくれないか、と心から願っている。
【Salvatore Cuomo Japan】
http://www.salvatore.jp/

MASTERキートン(1~18巻)(勝鹿北星・浦沢直樹/小学館)
「人生を変えた本」を挙げるとしたら、自分の場合はまず第一にこの作品を選ぶだろう。
「マスターキートン」によって与えられた影響は2つあって、一つには、ヨーロッパの文化についての知識と憧れを植え付けてくれたこと。そして、もう一つは、考古学者という職業と、歴史という学問についての興味をおおいにかきたてられたことだった。
物語の舞台はヨーロッパを中心に世界中に場所を移していて、プロットがとても緻密であることと、風景の描写が正確であることで、色々な街を旅しているような気分になる。
日本人とイギリス人のハーフである、平賀=キートン=太一の生活は、インディージョーンズほど波乱万丈なものではなく、もっと平凡だ。
ただ、そういう彼が経験する冒険であるゆえに、日常の中にも、好奇心さえあれば、魅力に満ちた世界への扉は常に開かれているのだということに、大きな希望を感じたのだった。
高校3年生だった当時、それまで理系の学部に進学するつもりでいた自分は、「マスターキートン」に大いに影響を受けて、歴史を勉強するために文学部に進学することに決めた。
もしこの本に出会っていなかったら、その後の人生はだいぶ違ったものになっていただろうと思う。
今使っているパナソニックのカーナビは、電源が入った直後の起動画面で「お姉さん」が登場して、注意事項の説明をしてくれるのだけれど、その服装が毎回毎回変わる。
最初は、せいぜい数パターンくらいだろうと思っていたら、どれだけあるのかわからないぐらい、服装のレパートリーが頻繁に変わる。
夏には浴衣になり、冬にはマフラー姿になる。時々OLになったり、パーティードレスになったりもする。正月には振袖に着替えて、時間が夜遅くになるとパジャマに着替える。
で、クリスマスには当然のようにサンタクロースの服装で出てきた。
パナソニックの開発チームの、このこだわり方はハンパじゃないと思った。中途半端に機能性を追求するのではなく、カーナビの本質とまったく関係ないところに賭けるこの情熱を讃えたい。
前に水晶堂で書いた、森達也さんの本「いのちの食べ方」を多苗に薦めて読ませたところ、「芝浦の食肉市場に見学のアポを取ったから、明日行こう」と声をかけてくれた。
芝浦の食肉市場では、大動物(牛)と、小動物(豚)の2種類が解体されている。
見学というのは屠蓄と解体作業のことと思いこんでいて、見慣れないその現場を果たして正視出来るだろうかと不安に思っていた。
しかし、衛生管理が徹底されている、防菌服や消毒が不可欠な場所なので、そもそも簡単に入れるような所ではなく、解体作業については、代わりに視聴覚室のような場所でビデオを観ることで説明を受けた。
ビデオは、NHK教育の小学生向け番組のような、「博士」が「子供たち」2人に向かって解説をする構成になっていて、「だいぶ内容を端折って適当にまとめた、おざなりな内容だろう」と思っていたのだけれど、全然違って、予想を大きく超えたものだった。
解体のプロセスを、余すところなく最初から最後まで伝えていて、更には屠場と差別の歴史についても、職員のインタビューを含めて説明がされていた。ビデオの後には、担当の方に直接詳しく話しをしていただいた。
日本は、仏教の影響で獣肉を穢れとしてきたという文化があり、江戸時代には職業の貴賎において、屠蓄業というものが差別を受けてきたという歴史もあった。
西洋文化が伝わった後は、肉食は日本人にとっても日常的な習慣になったけれど、その後にも穢れの意識だけは残った。
スタジオジブリが発売している「人間は何を食べてきたか」というビデオの1巻では、ドイツの、ソーセージを特産品としている街の紹介がされていて、そこでは、何軒かに1軒の割合で肉屋を営んでいる家があって、道端で豚の解体をおこなっている。
それは、日本でいえば魚をさばいているような感じで、一つの日常風景であり、欧米では単に肉屋という職業の一つなのだ。その、手際のいい動きからは、プロフェッショナルとしての技と誇りも感られる。だから、生活の中から不自然に隠されているということもまったくない。
食肉市場で観せてもらったビデオは、一般には市販も配布もされていないという。
それは、内容的にデリケートなものであるため、担当の方が併せて解説をする必要を感じてのことであるらしい。その代わり、見学の予約を入れれば、誰にでもビデオを放映してくれる。
今回もまた、「いのちの食べ方」の本と同じく、自分の中だけにおさめるには惜しい、やはり多くの人に知ってもらいたいと思う内容だった。
■東京都中央卸売市場食肉市場・芝浦屠場
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/syokuniku/syokuniku_top.html
東京都港区港南2-7-19
03-5479-0651
開場時間:平日10時~18時
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「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?(朝日新聞社)
読者からの質問メールに、村上春樹氏本人が一通一通丁寧に答えていくという、ラジオ相談室のような形式でのやりとりをまとめた本。ごく平凡な質問から、かなり緊迫感のあるシビアな質問まで、様々な質問があるけれども、どれも独特のユーモアを交えて、実に軽やかに答えている。
小説の世界とはまったく異なる文章だけれど、筆者の人間性がにじみ出ているこちらの文章にも、小説以上に面白い内容がたくさんある。
基本的には、どの回答にも真面目に答えるよりは、ウィットを重視した内容が多くて、それも良いのだけれど、「文章」「文学」についての問いには、真正面から真面目に答えていることが多く、これは、とてもなるほどと思う内容が多い。エッセイに近いものがあるけれども、問い自体は他者から与えられているので、話題があちこちの方面に及んでバラエティーに富んでいて、エッセイよりもずっと読み物として楽しい。
【名言】
マンネリになったことがあるか?ということですが、マンネリになったら、僕なら、その時点で離れます。それはとてもはっきりしています。人生というのは退屈しながら生きていくにはあまりに貴重なものです。ほんとに。(p.47)
人生の変わり目はだいたいにおいて、向こうからあなたを選びます。あなたが選ぶことはほとんどありません。ほんとに。チャオ。(p.93)
文学というのは85パーセントまで、心持ちと志(こころざし)の世界なのです。それは人種やジェンダーの差異を超えたものです。(p.147)
多くの人に触れていろんな経験をすることももちろん大事ですが、ものを書くためには、経験さえすればいいというものではないように思います。経験の中にどれくらい自分の「共振性」を見いだせるか、というのが大事なことだと思います。わずかな平凡な体験からでも、多くのことを引き出すことは可能です。(p.160)
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自由が丘の正面口を出て、三井住友銀行の右横の細い路地を入ると、マクドナルドの斜め向かいに、時代を感じさせる定食屋がある。
カウンター席が7席ほどあるだけの狭い店で、昔ながらの定食屋という雰囲気だ。
おばさんとおじさんの2人でやっていて、とても感じが良い。この居心地のよさのために、常連のお客さんが多いのだと思う。
コロッケ定食や、から揚げ定食など数種類のメニューがあって、どれも旨いけれど、特におススメは生姜焼き定食。キャベツ付きの生姜焼き、つけもの、ごはん、味噌汁、がついて750円。サイドオーダーで玉子や納豆も追加出来る。
これだけコストパフォーマンスもよく、まっとうに「良い店」を続けている食堂が近所にあるというのは、とても嬉しい。
【瀬戸】
東京都目黒区自由が丘2-11-16
03-3723-9443
[月~土]12:00~20:30
[日・祝]12:00~20:00
定休日:水曜日・第3木曜日
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チーム・バチスタの栄光(海堂尊/宝島社)
名前からして、サッカーか何かの話しと勘違いしていたのだけれど、「バチスタ」というのは心臓外科手術の名称で、意外にも医療ミステリーの話しだった。
章分けは、「ネガ」「ポジ」「ホログラフ」に分かれていて、その名の通り、ネガとポジでは話しの性質も雰囲気もまったく異なってくる。ネガとポジが両方合わさり、補完しあって、一つの物語が完成するのだ。謎解きで読ませるというよりも、この、構成の見事さで成立しているミステリーといっていい。
文庫版は上下巻の2巻セットになっていて、その、上巻と下巻の分かれ方のセンスが素晴らしい。何故こんな中途半端なところで分けるのか?と最初は思ったけれど、後から考えると、この分け方がベストなのだ。
これがデビュー作にもかかわらず、次回作への伏線と思われる部分も含まれていて、最初から主人公の個性的なキャラクターで続編を作るつもりでいたのだろうと思う。あまり感情移入出来るキャラクターではないけれど、シリーズ化はしやすい設定だと思った。
