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ブラック・スワン

これは怖い。
バレエをはじめとする、華やかなステージの世界というのは、その裏側では足の引っ張り合いや疑心暗鬼の渦巻く世界というイメージがあるけれど、心理サスペンスを描くにはうってつけの場所だと思った。
自分が主役として立っている舞台で踊れなくなる夢っていうのは、
これはもう、舞台に出る人にとっては、最も恐ろしい悪夢なんだろう。
そういう不安を表現する映像を見せるのがものすごく上手い。
壁に貼ってある絵が動き出すとか、いくら洗っても血が落ちないとか、もう、薬物中毒とか精神分裂症で見る幻覚みたいなのがフルセットで次々に出てくる。
特に、合わせ鏡の中に無数に映る自分の姿のうち、一つだけが振り返るってのはすごい。
ただ、映像の中で現実と妄想を混ぜてどっちで起きた出来事だかはっきりさせないというのは、「それをやったら何でもアリ」になってしまうので、夢オチと同じく、反則技な気がする。
「白鳥の湖」の舞台の佳境である、ブラックスワンを踊る舞台が凄絶で、迫力がある。「おまえには白鳥は踊れてもブラックスワンは踊れない」と言われた主人公が、いかに暗黒面を自分のものにするかがテーマになっているのは面白い。
真の芸術と狂気は紙一重という、その極限の世界を描いた点は、かなりスリリングで好みの映画だった。


リリイ・シュシュのすべて

やはり、岩井俊二の作る映画はすごいと思う。
よくここまで、心に突き刺さるような話しが描けるものだと思う。
中学生たちを主人公にしてるにもかかわらず、ものすごくハードな設定であることに驚かされる。でも、たしかに、今の日本で最も過酷な環境にあるのは中学生であるのかもしれないという気がする。
独特の世界観と映像の美しさを追求しながらも、その年代の不安、希望、失望、残酷さをそのまま取り出したような映画。
全体的に辛い場面が多いのだけれど、その間に挿まれる、沖縄旅行の楽しい雰囲気がまた、かえって結末を悲しく感じさせる。
唐突すぎて理屈がよくわからないところや、筋が通っていないようなところも色々とあるけれど、それが現実の世界というものなのだから、その意味でも、とてもリアルな感じがする。

1252日 FLOWERS

| 映画 |


FLOWERS

ある家族の、昭和から平成にかけての三代にわたる群像劇。
赤朽葉家の伝説」といい、「抱擁、あるいはライスには塩を」といい、こういう種類の物語が、僕はとても好きなんだと思う。女系家族で、女性視点からの語りであるというのも、面白いところだった。
映像の撮り方が上手くて、昭和30年代や50年代当時の色合いや服装がとても見事に再現されているために、本当にその時代を見ているような気分になる。
映画としては、それぞれが単独で主役を張れるような大御所的な女優が6人も共演しているというところが大きな特徴で、その豪華さの点でも、すごい映画だった。
誰か一人を主人公としているわけではなく、6人それぞれの、人生を大きく変えたようなターニングポイントの出来事だけを取り出して見せるような形なので、あまり深く一人ひとりを掘り下げている感じではないのだけれど、その、さらっとした感じまでもが好み。
一族や血統の中に何らかの共通点があったりするわけでもなく、この家族を印象づけるような特別な特徴があるというわけでもない。言ってしまえば、どこの家庭にも多かれ少なかれあるような、些細な日常と、時おり予期せずして起こるハプニングの繰り返しだ。
どんな家族にも、その家族なりの歴史がある。どういう生き方が望ましいかということや、物事の善悪吉凶の因果は、ものすごく長い目で見なければわからないことだし、長い目で観た場合には、結局、すべての出来事があるべき時に、あるべき形で起こっているんだろうという気がする。
子供というのは、親が育てるというだけのものではなく、時代や環境や先祖など、目には見えない様々な要素によって育てられて、不可避的に、その人物でなければ為し得ない役割を果たしていくものなのだと思った。
エンドロールが、またよかった。明確なオチがあるわけではないけれど、映しだされる写真の断片から、その後の未来をなんとなく想像することが出来る。
この先も、何百年と時代が流れても、また同じように人の幸せや悲しみは繰り返し生み出されていくんだろうというような、大きな時の流れを感じさせる映画だった。
出演:蒼井優、鈴木京香、竹内結子、田中麗奈、仲間由紀恵、広末涼子


ブラックホーク・ダウン

戦場がいかに人間にとって過酷な場所で、戦争によっていかにあっけなく人間が死ぬかということを思い知らされる作品。
貧弱な装備しか持たないソマリアのゲリラ民兵との戦いに、アメリカ軍の精鋭部隊が投入されるという、圧倒的なまでにアメリカ軍優位な状況が、ブラックホークという一機のヘリコプターが墜落した瞬間から、戦局は大きく変わっていく。
その先は、ヘリの乗員の回収と機密保持のために追加投入される戦力が次々に返り討ちに遭うという泥沼化の一途。
たったひとつの小さなファクターによって、その後の展開がドミノ式に想像の範囲を超えて悪化していくという、カオス的な混沌の恐ろしさを実感させられる。
とにかくリアルさがスゴくて、本当に、自分自身が戦場のど真ん中にいるような気持ちになる。
ストーリー的な部分や、状況を説明するナレーションは最低限しか入っておらず、あとはひたすら兵士たちの視点での映像を映し続けるという、徹底した主観視点での映像になっている。
ヘリコプターが墜落する場面や、遮蔽物の狭い陰に隠れて銃で撃ちあう場面など、チャチなドラマの演出とは比べ物にならないくらい圧倒的な緊張感がある。
映画で表現することが出来る潜在能力とメッセージ性の大きさを感じた作品だった。


マッチスティック・メン

とても好きな映画。
どこをとっても総合的に完成度が高くて、何回も観返ししたくなる。
まずなんといっても、脚本が素晴らしい。あっと驚かされるというだけではなく、登場人物のキャラクターがよく現れるように、実に細かい部分までセリフや構成が工夫されている。
そして、主人公ロイを演じたニコラス・ケイジの上手さ。過度に潔癖症な詐欺師で、しかし根は悪人ではなく上品という、ものすごく繊細な役柄が、見事に表現されていた。他の登場人物たちも、その奥に隠された本質的な性格まで含めて、配役ととてもよく合っていたと思う。
ロイの家や、事務所、セラピストの部屋など、それぞれの舞台も、そこでの生活の様子が感じられるし、着ている服まで、その持ち主の性格をよく示していた。
DVDジャケットのシンプルな写真や、フォントも好み。
異世界や歴史物など、日常生活からかけ離れた設定の映画を手がけることが多いリドリー・スコットにしては珍しく、現代を舞台にしているけれど、得意領域を外してもなおクオリティーの高い作品を作れるというのはスゴい。
DVDでは、副音声にリドリー・スコット監督のコメンタリーが収録されていて、これがまた素晴らしい内容だ。それを聴きながらもう一度見直すと、「そんなところにまで気を配って撮影しているのか」ということがよくわかり、さらに作品が面白くなる。
ロイの家全体を室内のセットとして作ってあるにもかかわらず、庭にプールを置くことにこだわった理由や、アンジェラから渡される小道具としての灰皿の意味など、普通に見ていたら気がつかないような部分まで、製作者側からの意図が解説されていて、スタッフ全員が、この作品に対して大きな愛着を持っているということもよく伝わってきた。

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ジョージ・クルーニーの顔が濃い。
白黒映画の時代の二枚目というと、こういう俳優がスタンダードだったんだろうなあというような懐かしさを感じる。
身軽なバックパック一つで、何ものにも縛られようとせず、人生の多くの時間を飛行機の上で過ごす生活というのは、現代アメリカ版のジプシー族みたいなものだ。
その現実主義的であり虚無的でもある考え方には、ものすごく共感もしたし、その痛みや寂しさが伝わってくるところも多かった。
主人公の男の通算飛行距離は、1000万マイル。
月までの距離が25万マイルだから、どれだけの時間を放浪し続けたか、気が遠くなるほどだ。
傍からみると羨むほどの優雅な生活でも、その中身を覗いてみれば、冷え冷えとするぐらいの空洞が待ち構えているかもしれない。
効率化を考えて、ネットでモニター画面を通じて解雇通知を伝えようとする、エリートタイプの美人新入社員が、メールで別れを告げられるという因果応報的な場面も印象的だった。
結婚や家族とは何かということについて、今までにない角度から考えさせられた映画で、単純にまとめていない結末も好み。

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ものすごく良かった。
映画ではめったにつけることのない、★★★★★(五つ星)作品。
フーバー家の家族みんなが、何らかの点で、世の中の基準からちょっとハミ出した人々なのだけれど、そのハミ出しっぷりが、かなりいい味をだしている。ニーチェに傾倒している15歳の息子の雰囲気が特にいい。
面白いのは、みんなそれぞれ、プライドだけは充分以上に持ち合わせていることで、自己啓発マニアの父親を代表として、自分だけは他の家族や、他の人々よりも優れていると思っているところだ。
人生の「勝者」と「敗者」についての認識を変えるきっかけになったのは、似た者家族の中でも、人生経験の長さの分、より多くの敗けを味わってきた祖父で、彼だけは、自分自身を客観的に見る視点を持っている。
修復不可能なぐらいにバラバラな方向を向いている家族が、トラブルや挫折をきっかけにして、少しずつ絆を深めていくところは感動的だった。
フォルクスワーゲンのバンを、家族全員で押すシーンが好き。
フーバー家がこれからどうなるのかはわからないけれど、もう、何があっても大丈夫だろうと思わせる、良い余韻の残る映画だった。

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とても良かった。
ただ、この映画は、予想を裏切りまくる変化球すぎるので、一般ウケはしないだろうと思う。そういうところも含めて、とても好み。
「ラブリーボーン」というタイトルがいい。「骨」というからには死者のことと思っていたのだけれど、ラブリーな骨とは、どうやら、今まさに生きている人々の骨のことであるらしい。
かなり不気味な殺人犯によって突然命を絶たれた死者が、あの世から現世を眺めて家族にメッセージを伝えようとするという展開から、「ゴースト~ニューヨークの幻」のようなスピリチュアル復讐譚だと思っていた。
実際、そういう前予告の形を取っているのだけれど、これは、意図的に観客をミスリードするための仕掛けだったのかもしれない。
映画の中に現れる天国のイメージなどは、明らかにキリスト教的なのだけれど、思想としては、硬直した一神教のものではなく、それよりも一つ上のレイヤーに進んでいる。
この作品のテーマは勧善懲悪ではなく、いわば悪人正機説のような、より大きな視点での救済だ。
この映画のラストには、多くの人は納得しないかもしれない。憤慨するかもしれない。でも、僕は、とても感動的なメッセージだと思った。
神は行いの正しい人間のみを選んで救うわけではないし、世界を見渡せば、理不尽なことはいくらでもある。
どのように生きても、その一生はほんの一瞬のもので、悪人であろうと善人であろうと、いずれ平等に死は訪れる。
だからこそ、必要なのは復讐ではなく、感謝と赦しと、短い一生の間に起こる全てを受け容れる心なのだ。

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ハーパーズアイランド シーズン1(全13話)

孤島で起こる連続殺人事件という、ミステリーの王道的なシチュエーションで展開するシリーズドラマ。
ファイナルシーズンまでいかないと完結しないというパターンではなく、シーズン1の全6巻(全13話)で完結するようになっているので、その点、終わりが見えないままひたすら続いていく心配がなくていい。
孤島で開催されるウェディングパーティーにみんなで参加するという設定なので、最初はやたらと明るいんだけれど、人が死んでいくごとに、誰が殺人犯かわからないという疑心暗鬼の中、確実に雰囲気が悪くなっていく変化がスゴい。
テレビ放映用として構成されているので、いいところでコマーシャルが挿まれる空白が入ったり、きちんと一話ずつ、次の展開が気になるようなヤマ場で終わるように上手に組み立てられているあたり、とても芸が細かかった。
登場人物は総勢25人。つまり、容疑者も25人。
映画と違い、作品自体の時間がたっぷりとあるので、見ているうちに登場人物一人一人の個性がわかるようになってきて、そこからが面白い。
観ていくうちに、「こいつが犯人じゃないか!?」という予想を立てるのだけれど、それがことごとく覆されていく。犯人だと思っていた人がどんどん死んでいく。全部で6回ぐらいは予想をひっくり返されたと思う。

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最初のほうの、カールじいさんの回想シーンみたいなところは、無声にもかかわらず、映像だけでカールじいさんの人生すべてが語り尽くされていて、このシーンはスゴいと思った。
絵やアニメーションはものすごくキレイなのだけれど、やっぱりどうにも、人物の顔があまりにCG過ぎて、そこがしっくりこなかった。
「トイ・ストーリー」でも思ったことで、ストーリーや動きは良いにもかかわらず、キャラクターに入り込むことが出来ないために、作品にあまり愛着が湧かない。
南米ベネズエラの秘境をモデルにしていて、それに忠実に描いているらしく、背景はかなり臨場感があるし、よく作りこまれている。
DVDの特典として、スタッフが実際に、ベネズエラのデプイ(切り立った崖と平らな頂上で出来た、奇妙な形の台地)に取材に行った時の映像が20分くらい収録されていて、これが一番面白かった。
こんな場所が地球上にあるのか!と思うような、超絶的な風景ばかりで、そこに生息する動植物のうち70%は、そのデプイという、周りから隔絶された環境にのみ生息するものなのだという。
そこに行くまでに、ベネズエラの首都カラカスから飛行機を3回乗り継ぎ、バスで山の麓まで移動し、その後にヘリコプター。これほどの秘境がまだ残っているとは知らなかった。
本編よりも楽しい特典映像というのは、なかなか珍しい。

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