メールマガジン「矢文」No.352

■21世紀の歴史

今回は、面白かった本の紹介です。
『21世紀の歴史』(ジャック・アタリ/作品社)

38歳にしてミッテラン大統領の特別補佐官を務めた
ジャック・アタリ氏が、これからの世界の未来を予測
するという、もうそれだけでかなり興味をひかれる本です。

将来についての予測を述べる前に、まず、これまでの
資本主義の歴史の中で人類がたどってきた道のりが、
概観としてわかりやすくまとめられています。

未来予測は、もちろん正確におこなうことは不可能ですが、
この本の予測の方法は、アイザック・アシモフのSF小説
『ファウンデーション』の中でハリ・セルダンが
おこなっていたように、過去の歴史を元にして
人類が今後歩むであろう「大まかな」方向性について
予言をしていて、それは、多少の変数の変動があっても
高い可能性で発生するだろうと思えることばかりでした。

この本が面白いのは、それぞれの時代に出現した
「中心都市」という視点から歴史を俯瞰していることです。
その時々の市場状況や、産業の発達状態や、偶然的な要素
によって、中心都市は常に移り変わってきました。

これまでの人類の歴史に登場した「中心都市」は、
ブルージュ、アントワープ、ヴェネチア、ジェノヴァ、
アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、
カリフォルニア、の9つです。

その、中心都市の遷り変わりをまとめて見てみると、
確かに歴史の中には一定の法則が潜んでいるように思えます。
それをそのまま未来に適用して、これからの動向を推測して
いるので、著者の意見にはものすごく説得力があります。

中心都市は段々と東から西へと移動していて、
大西洋を越えてヨーロッパからアメリカに渡り、
順当に行けば、さらに太平洋を越えて東京へと中心都市が
移行するという可能性も、かなりの割合でありました。

しかし、日本はそのチャンスを一度は逃しています。
それはとても残念なことではありますが、今後アジアの
どこかの都市が中心都市となることは間違いなさそうで、
その時にはまだ、東京にも再登場の可能性はあります。

この本が、現在の中心都市が存在するアメリカから出版
されたのではなく、フランスから出版されたというのは、
とても面白いことだと思います。
かつて歴史的に中心都市を持ったことがないフランスという
国からの分析であることで、この本の記述は、アメリカが持つ
今後の影響力を過大評価も過小評価もせず、とても客観的に
おこなわれていると思いました。

アメリカという国が大きな影響力を持った時代に
育ってきた私にとっては、アメリカが世界の中心の座を
明け渡すという図を想像することは、なかなか難しいこと
でしたが、この本を読むと、歴史の必然性として、
中心都市の栄枯盛衰は不可避の出来事なのであるという
ことがよくわかります。

「歴史から学ぶ」ということの重要性をこれほどまでに
痛感させてくれる本は、今までにありませんでした。
読み物としてだけでもかなり面白く、現代の国際政治の
状況についても、とてもよく理解出来る本だと思います。

■9周年のご挨拶

「矢文」をお読みいただき、ありがとうございます。
(株)インフォアローは、
今日4月4日、設立9周年を迎えました。

また今年も、桜の季節とインフォアローの誕生日を
迎えることが出来て、とても嬉しく思っています。
10年目となる今年も、どうぞよろしくお願い致します。