「伝記家」とはなにか

こんにちは、伝記家の清水です。
あっきーと呼んでいただけると嬉しいです。

伝記家と言われても「なんのこっちゃ」かもしれませんが、縁があってお会いした人に聞いたライフストーリーを、その人の伝記として書き残す、ということを続けています。
2007年に開始して、2024年までにのべ186人の伝記を書いてきました。
(※17年間のうち、子供が生まれてからの10年間はすべての活動を休止していたので、実質的に活動していたのは7年間です。)

伝記を書くことに関連してお金のやりとりは一切ないので、これは仕事ではありません。
かといって、趣味というほどライトなものでもなく、自分の人生を通じて死ぬまで続けたいライフワークという言い方が一番近い気がします。

なぜ一円も稼げないものを長年続けているのかといえば、これがとても面白くて、社会的な意義もあるものだと思っているからです。
今回はそんな、伝記家についての魅力を語る「伝記家のススメ」を書いてみたいと思います。

「伝記家」とはなにか

そもそも、なぜ「伝記家」と名乗っているのか、を説明します。
世間的にわかりやすい言葉で言えば「インタビューライター」ですが、それとの違いは次のようなことです。
インタビューは目的があってやるもので、最初に、掲載をするメディアや雑誌などの編集方針があり、その方針に沿って取材対象者が選ばれて、目的に合った記事が書かれることが普通です。

それに対して、「伝記」には、あらかじめ目指すゴールはありません。
主導権は常に話し手の側にあり、話したくないことは話す必要がなく、その場で話された内容のうち、これは公開してもさしつかえない、と両者が合意した内容のみが「伝記」として書き残されます。

理想的な状態は、話し手の人が「今まで、このことについては考えたことがなかったな」という内容がその場でポッと出てきて、新しい気づきが話し手自身にもあるような対話がおこなわれた時です。
逆にいえば、今までに何度も尋ねられたような問いが出て、それに対してあまり深く考える必要もなく、通りいっぺんの答えが出て終わるような場合が一番つまらない失敗です。

だから僕は、人に会う前に質問リストを用意するようなことはしません。
何も持たずに、徒手空拳で人に会うというのは怖いことですが、そういう姿勢で向かわないと出てこなかった話こそが、僕が求めているものです。
そういった話を引き出すには、相応のスキルや経験が必要だと思っており、その道を追い求める者、という意味を込めて、伝記「家」という肩書を名乗ることにしました。

なぜ伝記を書くことをライフワークにしたのか?

さて、ではなぜ、伝記を書くことを生涯のライフワークにしようと思ったのか。
僕はこの質問を受けるたびに、たくさんある理由の中からランダムに一つを選んで答えています。

それは、その全部を話して説明するには時間がかかりすぎてしまうので、やむなく省略をして伝えているわけですが、ここでは文章でじっくりとお伝えできるので、今回は、その理由を一つずつ説明していきたいと思います。

1)死ぬまで継続できることを持ちたかった

僕は、生涯を通じて打ち込むことができるような、ライフワークを持ちたいと思っていました。
ライフワークというのはたいがい、「緊急ではないが大事なこと」なので、意識的に時間を作らないと、「大事ではないが緊急なこと」に押し流されて、手をつけられないままに終わってしまいます。

仕事を継続するための秘訣は、放っておいても、たとえ誰かに止められても、どうしてもやってしまうようなことを仕事にしてしまうことだと思っています。
僕にとって、人に話を聞くことと、聞いた内容を文章にすることは、どうしようもなく好きなことで、これならば年をとっても死ぬまで継続できることだろうという確信がありました。
「これさえやっていれば自分は大丈夫だ」と思える仕事を持っていることは幸せなことだと思います。

2)放っておいたら消えてしまう言葉を残したかった

誰かと話をしているとき、ふいに、ものすごくいい言葉が出てくることがあります。
それは、時間が経つと忘れられてしまう、宝石のような宝物で、その、放っておけば消えてしまうであろう言葉の断片を僕は惜しみます。
柳田國男は「遠野物語」において、名もない市井の人々の語りを書き残していきましたが、それは長い月日を経ることによって、ますます価値を高める種類の記録です。
僕は現代において、同じように、今を生きる人たちの暮らしを、後世に向けて書き残したいと思っています。

3)知られざるスゴい人を紹介したかった

とてもユニークな考え方や、貴重な経験を持っている人々は、しばしば在野に潜んでいます。
自分からその知識や経験をひけらかそうとはしない人たちは、とても尊敬すべき奥ゆかしい人たちなのですが、それゆえに他の人々に知られることがないことが、もったいないと僕は思ってしまうのです。

ITに疎かったり、年齢のことなどが理由で、SNSを使い慣れない人は、自分のごく身近な場所よりも外側の世界との接点を持っていません。
そういった方の代わりに、僕は「ここに、こんな人がいる」ということを伝えたいと思っています。
おせっかいな事かもしれませんが、それは、誰かがやったほうがいいことだという気がします。

4)友達ともっと仲良くなりたかった

伝記を書くために人に話を聞いていて驚くのは、とてもよく知っていると思っていた身近な人でさえも、あらためて深く話を聞くと、今まで知らなかった新しい一面が見えてくるということです。
ふだん世間話をしているだけでは決して出てくることがない話が、「今はあなたの話を聞く時間ですよ」という枠組みを作ることで出現する、ということはしばしば起こります。
自分のごく身近な人や、親しい友達のことをよりよく知るために、相手の話をじっくりと聞くための時間を持つのは、とてもいい方法だと思います。

5)会いたい人に会いに行けるようになりたかった

「会いたいけれども、まだ会えていない人」に会うためのきっかけとして、話しを聞かせてもらいに行く、というのはかなり成功率が高い方法です。
ただしそのためには実績が必要で、自分のメディアを持っていて、過去にまとまった人数の記事を作っていることが条件になります。

その実績を積み重ねることで、メディアの信頼性が高まり、始めたばかりのときには声をかけるのがはばかられるような高みにいた人にもコンタクトを取ることができるようになっていきます。
そのレベルアップ感も含めて、続けていくほどに会える人の幅が広がっていくのは、インタビューメディアを作ってインフルエンスを高めていくことの大きな醍醐味だと思います。

伝記家のススメ

以上が、僕が伝記を書くことをライフワークにしている理由です。

僕は、本業としてはシステムエンジニアをやってお金をもらっている人間で、人に話を聞くことや、物を書くことを仕事にしたことはなく、そのための訓練をした経験もゼロです。
それでも、たくさんの人に話を聞くということを続けた結果、とても多くのギフトを受け取ることができました。

インタビュアーには、みんながなるべきだし、聞かれる側(インタビュイー)にもなるべきだと思っています。
今回の記事で、みなさんに伝記家というものの魅力について、少しでも理解してもらえたなら嬉しいです。
もし、ご興味を持たれた方は、ぜひご連絡ください。

・この投稿は、iitoco!!アドベントカレンダー2024への投稿記事です。