幡野広志さんにお会いした時の話し

僕は幡野広志さん(@hatanohiroshi)が書く文章がとても好きで、かねてから、いったいどういう人なのだろうと興味を持っていた。

幡野さんのトークイベントがあると聞いて、天王洲まで行ってきた。
めったにないであろう機会だ。

トークイベントの開始は17時。
この日は、子どもをお風呂に入れる時間までに家に帰る予定になっているので、始まって30分くらいで会場を出ることになる。

しかし今日は、開演の2時間前から開場して、フリートークの時間があるという。
早めに行けば、少しお話が出来るかもしれない。
そう思い、早めに会場に到着した。

会場の広いロビーの、そこここに、今日の参加者の人たちが座っている。
幡野さんがふっと、現れた。
「あっ!」と思ったけれども、どうしていいかわからない。

他の人たちも、おそらく、どうしていいかわからない中、一人ずつ、幡野さんに話しかけていく。
皆、いろいろとお話ししたいことがあるようで、挨拶だけではなく、なにかの質問だったり相談だったりを投げかけて、それに対して、幡野さんがじっくりと言葉を返しているようだった。

そういう感じのペースなので、握手会とかサイン会のように、長い列が出来て次々に入れ替わっていくという感じではなく、常に1人か2人、次の人がネクストバッターボックスに立つように、少し離れた場所で待つ、という感じの流れになっていった。

こういう状況は、ちょっと話しかけに行きにくい。
とくに話しをしたいトピックがあるわけでもない自分が、幡野さんの時間を取ってしまうのは気がひけるということもあり、少し離れた場所に座っていた。

近くに、幡野さんの奥さんとお子さんの優くんがいて、少しお話しをした。
お気に入りだという機関車トーマスの水筒を持っている。
優くんと、ウチの娘とは、誕生日が1ヶ月しか違わない。
娘のほうが少し先に2歳になったけれど、優くんのほうが大人びている印象だった。

そのうちに会場のドアが開き、スタッフの人が参加者の誘導を始めた。
トークショーの始まりまであと5分。
もう始まってしまうな、と思った。

みんなそれぞれ会場に移動を始めて、周りに人がいなくなったとき、幡野さんがそれまで話しをしていた人と話し終えた。
そして、そのタイミングで、僕だけが幡野さんの近くにいた。
奇跡のような幸運だ。

「ああ、どうもすみません、お待たせして」と、幡野さんは恐縮をしながら声をかけてくれた。

「お会い出来て嬉しいです。
幡野さんに話したいことや聞きたいことがあった訳では無いんですが・・
とにかく、幡野さんに直接会いたい、と思って来ました。」
と伝えると、
「会えるもんですよね。
僕、会いたい人には会える、って思うようになったんです。」
と教えてくれた。

一緒に写真を撮らせてもらってもいいですか、とお願いをした。
撮影をお願いしたスタッフの人が、どこからどう撮ればいいかと、少しだけ悩む。
「写真家あるあるなんですけど、写真家の人を撮るときって、皆さん緊張するみたいなんです」

幡野さんの隣りに立つ時、優くんを抱っこさせてもらった。
イヤがられてしまうかな、と思ったのだけれど、驚いたことにまったくスムーズに、とても落ち着いて腕の中におさまってくれた。

別れ際、幡野さんが手を差し出し、僕は(ありがとうございます)という思いを込めてその手を握り返した。
「力強いですね。いい握手ですね。」と言ってくれた。

ほんの僅かな会話だったけれど、心に残る、いい時間だった。