こんにちは、伝記家あっきーです。
今を生きる人々の物語を伝記として形に残すべく、毎日さまざまな方にお話を聞きに行っている者です。
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本業としてはシステムエンジニアを生業にしていて、伝記家のほうはお金を稼ぐ行為とはまったく無縁なので、死ぬまで続けたいライフワークとしておこなっています。
このライフワークを始めたのは2007年からで、その時から数えて、もう18年が経ちます。
途中、育休をきっかけにすべての活動を停止していた期間があり、10年ほど更新を休んでいましたが、移住先の周辺に面白い人があまりにもたくさんいるので、居ても立ってもいられず、人にお話を聞きに行くことを再開しました。
わざわざ長野県に移住してきた人たちは、ただなんとなくここに住んでいるわけではなく、何らかの目的意識を持って東京や全国各地からやってきた人たちばかりです。
僕が移住前に住んでいた横浜のベッドタウンと比べて、近所にいる人の中に、ユニークな価値観やライフスタイルを持っている人の割合が急激に上がりました。
そういうわけで、人にお話を聞きに行く伝記家活動を再開したのが、2024年初頭のことです。
聞いたお話は、文字起こしをした後、写真と文章を編集して、インタビュー記事のような形でまとめていました。
が、これがものすごく時間がかかるのです。
お話をしている時はものすごく楽しいのだけれど、終わった後、「これ、いったいどうやったら記事にまとめられるんだろう……」と憂鬱になることがしばしばありました。
インタビューは、ただ文字起こしをしただけでは抜け落ちてしまう、その人のキャラクターやニュアンスがあります。それをなんとか表現するために、語尾を工夫してみたり、話の構成を入れ替えてみたり。
そうやって試行錯誤をするうちに膨大な時間がかかってしまい、毎日ずっと編集をやり続けていても、1つの記事を仕上げるのに平均で1か月近くかかっていたのです。
ところで、長野に移住したことで、大きくライフスタイルが変わった点として、電車にほとんど乗らなくなった代わりに、どこへ行くにも車で移動するようになりました。
そのことで、主に電車での移動中におこなっていた読書の時間がなくなり、車の中ではPodcastやVoicyの番組を聴くようになったのです。
そこで僕は、音声形式で配信をするラジオのポテンシャルを知りました。
人の声というのは、とても豊富な情報を含んでいて、文字では表現しきれない微妙なニュアンスや感情まで伝えてくれます。
これなら、どういうテキストにすれば話の雰囲気を損なわずに形に残せるかに、頭を悩ませる必要がなくなりそうでした。
一方、文字には文字の良さがあります。
ICレコーダー1本だけで、より自由な形でお話を聞けること。編集によって構成を組み替えることで、そこに物語を持たせることができること。
果たしてどちらのほうがいいのか。
とりあえずSpotifyで配信用のアカウントを作って、ラジオ形式の収録を試してみることにしました。
Spotifyでは「ビデオPodcast」という、YouTubeのような動画形式も扱えるようになっていて、これからのトレンドになりそうな雰囲気があります。やるのであれば動画のほうが、さらに話し手の人柄がわかりやすくなり、視聴者側の視点でも面白くなる気がしました。
さて、あとは実際にやってみるだけです。
このときの僕の頭の中では、生放送のラジオ番組のような内容をイメージしていたので、30分間という枠を決めて、とにかく30分話したら、内容にかかわらずそこで終わる、というやり方にしました。
その30分がどういう流れになるのか、まったく予想がつかないので、僕にもプレッシャーがありますが、それ以上に、話し手の人がかなり臨機応変に対応できる柔軟性がないと難しそうだぞ、と思いました。
そういうことを考えた上で、ラジオ版の第一回目のゲストとしてお願いしたのが、江原政文さんです。
江原さんであれば、想定外のトラブルが起こったとしても、なんとか対応してくれそうですし、むしろ楽しんでくれそうな気がしました。
そのような流れで、ラジオ版の第一回の収録をおこなったのが、佐久野沢の「喫茶あるいは」のカウンターで、2025年1月24日のことでした。
タイマーをセットして、30分ノーカットで収録をして、時間がきたら終了。今考えると、生放送でもないのに、なんで編集なしという縛りをかけたのかわからないのですが、ラジオっぽいノリでやりたかったんだと思います。
この初回の、収録開始3分で早くもハプニングが起こりました。
収録中ということを知らない坂本さん(さかもっち)が画面の中に入ってきて、そこでしばらく会話。
それ以降は、何事もなかったかのように話を戻して、30分の収録が終わりました。
そして、この予想外の乱入の流れをいかして、その時に初対面だったさかもっちと、続けて2本目の収録。
突然のオファーをよく引き受けてくれたなあと思うのですが、さかもっちも持ち前の対応力で、スムーズに終えることができました。
この初収録の日、僕はもう一つの目標を江原さんに宣言していました。
収録をおこなったその日のうちに、編集まで終えて番組を完成させることです。
はじめての動画編集でよくわからないながらも、ページを作り終えて、ギリギリ23時59分に「できたよ!」と江原さんに連絡。ラジオ版の第1回目の番組が完成しました。
あれ?
今まで1か月に1人のペースでやっていたのが、たった1日でできる?
しかも、圧倒的に楽しい!
テキストで編集をしていた頃は、話を聞いている時は楽しくて、聞き終わったあとの作業部分が苦行でした。それがラジオにすると、ほとんど「楽しい」部分しかないわけです。
このブレイクスルーによって、人に会いに行けるペースが格段に上がり、この11か月で112人にお話を聞きました。月に10人だから、3日に1人のペースです。
SpotifyでビデオPodcastの配信を始めた今年は、伝記家としての活動の大きなターニングポイントになりました。
最近は、AIの技術が進歩して、Gemini 3などにインタビューを文字起こしした元原稿を入力すると、かなり完成度の高い編集がおこなわれた記事が生成されるようになっています。
この先もますます編集の精度は高まっていき、人間の編集者は駆逐されていく時代になるのかもしれません。
そうなってもAIに代替されない最後の砦が、この原始的な、おそらくホモ・サピエンスの誕生とともにあったであろう、「人に話を聞きに行く」という行為だと思っています。
居心地のいい場所を選び、同じ空間と時間を共有する相手と、そのタイミングでしか生まれない予測不可能な会話を楽しむ。
そのプロセスが、僕が一番の面白さを感じる部分で、これからも長い時間をかけて取り組んでいけるライフワークになるといいな、と思っています。
