差分(佐藤雅彦/美術出版社)
二つの絵を見た時に、そこから起こる様々な反応を楽しむというテーマの本。言葉によらずに、絵がメインの表現となっているところがいい。
大学の研究室での研究テーマが元になっているためか、かなり学術的な色合いが濃くて、そこがユニークなところでも面白いところでもある。
途中、佐藤雅彦氏と茂木健一郎氏の、「脳の働き」という観点から見た「差分の処理」についての対談も挟まれている。
1秒間で30フレームもの絵を表示するようなアニメーションとは違い、たった2枚の絵だけで表現するというのは、鑑賞する側に高度な想像力が要求される。
単なる点の集まりである星の光を見て、そこから様々な星座や物語を生み出したのと同じような、原始的なインスピレーションを呼び起こす刺激が、この本にはあった。
【名言】
結局、言語っていうのはいろんな「modality(種々の感覚)」の情報を統合するところから生まれてくるので、「にゅるーっ」ていうのはもちろん視覚でもあるし、時間感覚でもあるし、触覚でもある。そういういろんな感覚の統合過程を通して、「にゅるりん」とか、言語やオノマトペに近いような情報が脳の中に表現されているわけで。いったん言語にしてしまえば伸縮自在といいますか、それこそ刹那から永遠まで言語で表せる。そういう意味で、言語っていうのはトップダウンの最たるものなんです。(茂木健一郎)(p.150)
「差分」というものを突き詰めてみようと思ったきっかけの一つは、それが本来人間にとって必要で、もともと備わっている機能ではないかと考えたからなんです。たとえば、原始社会では暗闇で動物がざわっと動いた気配、そのちょっとした日常の差を感じられるかどうかが、そのまま生死にかかわったわけで、そういう機能があったとしたら、それを現代に呼び起こすことができないかと思ったんです。(佐藤雅彦)(p.152)