前に水晶堂で書いた、森達也さんの本「いのちの食べ方」を多苗に薦めて読ませたところ、「芝浦の食肉市場に見学のアポを取ったから、明日行こう」と声をかけてくれた。
芝浦の食肉市場では、大動物(牛)と、小動物(豚)の2種類が解体されている。
見学というのは屠蓄と解体作業のことと思いこんでいて、見慣れないその現場を果たして正視出来るだろうかと不安に思っていた。
しかし、衛生管理が徹底されている、防菌服や消毒が不可欠な場所なので、そもそも簡単に入れるような所ではなく、解体作業については、代わりに視聴覚室のような場所でビデオを観ることで説明を受けた。
ビデオは、NHK教育の小学生向け番組のような、「博士」が「子供たち」2人に向かって解説をする構成になっていて、「だいぶ内容を端折って適当にまとめた、おざなりな内容だろう」と思っていたのだけれど、全然違って、予想を大きく超えたものだった。
解体のプロセスを、余すところなく最初から最後まで伝えていて、更には屠場と差別の歴史についても、職員のインタビューを含めて説明がされていた。ビデオの後には、担当の方に直接詳しく話しをしていただいた。
日本は、仏教の影響で獣肉を穢れとしてきたという文化があり、江戸時代には職業の貴賎において、屠蓄業というものが差別を受けてきたという歴史もあった。
西洋文化が伝わった後は、肉食は日本人にとっても日常的な習慣になったけれど、その後にも穢れの意識だけは残った。
スタジオジブリが発売している「人間は何を食べてきたか」というビデオの1巻では、ドイツの、ソーセージを特産品としている街の紹介がされていて、そこでは、何軒かに1軒の割合で肉屋を営んでいる家があって、道端で豚の解体をおこなっている。
それは、日本でいえば魚をさばいているような感じで、一つの日常風景であり、欧米では単に肉屋という職業の一つなのだ。その、手際のいい動きからは、プロフェッショナルとしての技と誇りも感られる。だから、生活の中から不自然に隠されているということもまったくない。
食肉市場で観せてもらったビデオは、一般には市販も配布もされていないという。
それは、内容的にデリケートなものであるため、担当の方が併せて解説をする必要を感じてのことであるらしい。その代わり、見学の予約を入れれば、誰にでもビデオを放映してくれる。
今回もまた、「いのちの食べ方」の本と同じく、自分の中だけにおさめるには惜しい、やはり多くの人に知ってもらいたいと思う内容だった。
■東京都中央卸売市場食肉市場・芝浦屠場
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/syokuniku/syokuniku_top.html
東京都港区港南2-7-19
03-5479-0651
開場時間:平日10時~18時