そうだ、村上さんに聞いてみよう

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「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?(朝日新聞社)

読者からの質問メールに、村上春樹氏本人が一通一通丁寧に答えていくという、ラジオ相談室のような形式でのやりとりをまとめた本。ごく平凡な質問から、かなり緊迫感のあるシビアな質問まで、様々な質問があるけれども、どれも独特のユーモアを交えて、実に軽やかに答えている。
小説の世界とはまったく異なる文章だけれど、筆者の人間性がにじみ出ているこちらの文章にも、小説以上に面白い内容がたくさんある。
基本的には、どの回答にも真面目に答えるよりは、ウィットを重視した内容が多くて、それも良いのだけれど、「文章」「文学」についての問いには、真正面から真面目に答えていることが多く、これは、とてもなるほどと思う内容が多い。エッセイに近いものがあるけれども、問い自体は他者から与えられているので、話題があちこちの方面に及んでバラエティーに富んでいて、エッセイよりもずっと読み物として楽しい。
【名言】
マンネリになったことがあるか?ということですが、マンネリになったら、僕なら、その時点で離れます。それはとてもはっきりしています。人生というのは退屈しながら生きていくにはあまりに貴重なものです。ほんとに。(p.47)
人生の変わり目はだいたいにおいて、向こうからあなたを選びます。あなたが選ぶことはほとんどありません。ほんとに。チャオ。(p.93)
文学というのは85パーセントまで、心持ちと志(こころざし)の世界なのです。それは人種やジェンダーの差異を超えたものです。(p.147)
多くの人に触れていろんな経験をすることももちろん大事ですが、ものを書くためには、経験さえすればいいというものではないように思います。経験の中にどれくらい自分の「共振性」を見いだせるか、というのが大事なことだと思います。わずかな平凡な体験からでも、多くのことを引き出すことは可能です。(p.160)