麗奈ちゃんは、5年前からずっとオレの髪を切ってくれている人だ。最初は、自由が丘の美容院で働いていて、そこに行って切ってもらっていたのだけれど、その後独立して、自分の部屋で、親しい人たちのカットをしている。
オレは、彼女のセンスと腕には絶対の信頼をおいているので、おおまかなニュアンスだけ伝えて、後はまかせてしまう。毎回、少しずつ違った要素が入りながらも、その時に一番ふさわしい髪型にしてもらっている感じがする。
麗奈ちゃんは、特別な生活をしているわけではない。
でも、日常の些細な出来事からたくさんの気づきを拾い出して、それに大きく感動していたりする。だから、麗奈ちゃんは、いつ会って話しをしても最近あった感動した話しが出てくる。感受性が極めて豊かな人なのだ。
麗奈ちゃんは、話し始めるなりすぐに、「あっきーは、今好きな人いるの?」と、いきなり直球で入ってきたりする。といっても、芸能レポーターのようにガツガツと押し入ってくるわけではまったくなく、ごく自然に話しかけて、返ってくる応えに耳を傾けて、感じたことをそのままゆっくりと素直な言葉で伝えてくる。
オレはその対話が心地よく、色々なことを彼女の視点からはいったいどう感じられるのか、知りたくなってしまう。
麗奈ちゃんは、今まさに出産直前の時期にいる。
あと数日で母となった時から、きっと長い長い時間をかけて自分の子と向かいあっていくことになるのだろう。
これから更にたくさんの感動を経験して、さらに磨かれる彼女の感受性と対話が出来るというのは、オレの大きな楽しみの一つだ。