「無人島に何か一つだけ持っていけるとしたら何を持っていくか」と尋ねられたら、オレは尚志を連れていくことにしようと思う。
世の中には、クイズに答えるのが得意な人がいる。
それとは対照的に、クイズの問いそのものを考えるのが得意な人がいる。
クイズに答えることは知識があれば出来るけれど、クイズを作るような、ゼロから何かを生み出す作業にはクリエイティブな資質が必要で、誰にでも出来るというわけではない。
会話においては、決して通りいっぺんの質問や一般的なテーマに満足せず、新しい視点や価値観を相手に提供する力。斎藤孝さんであれば、それを「設問力」とでも名づけるだろう。
尚志は稀有の設問力の持ち主で、話しの一歩先がどう展開するか、まったく予想がつかず、常に想像の範囲を上回る。
「ちょっと、あの車にお名前つけてあげて」
「ちょっと、己(おれ)を困らせるような褒め方をしてみてよ」
「ちょっと、自分の過去の名場面を文学的に解説してみてよ」
いったいどこからそのテーマが出てくるのかわからないけれど、こういうキレのあるパスを渡されると、頭をフル回転させて応えざるをえない。こんな状態の時は、会話そのものが最高の娯楽になる。
たとえ、地球上のどこにいたとしても、尚志がいれば、その場で思いついた考えを発表し合うことも出来るし、そこにあるものを使って遊べるゲームを考えて、決して退屈を感じることがないだろう。
無人島に置き去りにされることがある時には、欠かすことの出来ない存在だ。