まず、始まった途端にその演出と構成とに度肝を抜かれるのだけれど、そのことにはここでは触れないでおく。この映画は、演出に関する予備知識を持たないままで観るのが一番楽しめると思うからだ。
この作品は、現代の童話だ。
童話はたいてい淡々と平明に進んでゆくものだけれども、その中で描かれるテーマは、その淡白な調子とは裏腹に驚くほど辛辣であったり、救いがなかったりする。
映画は、たった22人しか住まない小さな村の出来事を描いている。
その閉鎖的な村に突如としてあらわれた美しき主人公グレース(ニコール・キッドマン)は、おとぎ噺で言えば「竹取物語」のかぐや姫や、「鶴の恩返し」の鶴のような、異分子だ。
その異分子に対して人はどのように反応し、接触し、変化してゆくのか。
一人一人は善良で賢明であっても、それが群集になった時、正常な判断が出来なくなることは往々にしてある。責任の所在が自分個人に生じるのではなく、集団全体という曖昧な所在になった時、人はいくらでも残酷になる可能性がある。
この「ドッグヴィル」という小さな村はそのまま人間の住む現世の縮図であり、そこで起こることは、どの時代のどの場所でも起こり得る普遍的な出来事だ。
壁一枚を隔てた向こう側では何が起こっているかわからない日常が、この映画の中ではすべて白日の下にさらされてしまう。
この映画は、万人に薦められるものではなく、人によってはさっぱり面白くなかったり、嫌悪感を持って拒絶されたりということも大いにありえる。
でも、優れた童話というのは、大抵そういう性質のものじゃないかと思う。