怖い映画だけれど、ホラー映画と違うのは、何か得体の知れない怪物が襲ってくるわけではなく、「集団」による心理的な恐ろしさを表現しているところだ。カモメやスズメのような、一羽一羽は何の危険性もないような鳥でも、それが何百羽も集まると、人間にとって充分な脅威になる。
無数の鳥が静かに集まってくる場面や、人間を攻撃する場面の映像の迫力がとにかくスゴい。今ならCGでいとも簡単に表現出来る映像だろうけれども、やはりホンモノの鳥を使った臨場感には、どれだけ精巧なCGを駆使しても敵わないものがあると思わせる。
当時、ヒッチコックには「サイコ」のヒットという実績があったために、これほど前衛的な映画を撮る予算や環境を得ることが出来たのだろうけれど、そうでもなければ、こんな映画は撮ることが出来なかっただろう。
この物語の終わり方には、結構意表をつかれた。そういう終わり方をするのか?とびっくりした。
いったい、この作品の中の「鳥」とは何を象徴したものだったのか。その点は、かなり観客の想像にゆだねられる構成になっているけれども、一つには群集というものの恐ろしさ、そしてもう一つにはやはり、人間がないがしろにした自然からの逆襲、というのが大きなテーマになっているのだろうと思う。
「鳥」(1963年)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ロッド・テイラー、ジェシカ・ダンディ