藤子・F・不二雄SF短編集


藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 全8巻(藤子・F・不二雄/小学館)

これら、一連の藤子・F・不二雄SF短編作が出版された1970年前後の頃、その売れ行きはさっぱりだったそうだ。「ドラえもん」は売れ行きが伸びているのに、時間をかけてリサーチして作っているSFはまるで売れなかったという。
しかし、名作は永い年月の間にもしっかりと残るもので、今こうして、全112話のSF短編は装丁を変えて新たに世に出され、読者に感動を与えている。物語の作り手からすると、これ以上の喜びはないのではないかと思う。
特に名作だと思うのは、1巻の「ミノタウロスの皿」「劇画オバQ」「気楽に殺ろうよ」、4巻の「カンビュセスの籤」「未来ドロボウ」。
いずれの作品も、考えもつかないような盲点を突いた価値観の逆転を示していて、しかも風刺がきいている。ほんの数十ページの短編だけれども、何千ページもの文学作品にも匹敵する大作だと思う。
その他の作品にも駄作というようなものはなく、純粋にSFとしてとてもレベルが高い。本来、「ドラえもん」のような作品よりも、こういう純粋なSFの分野のほうが、藤子・F・不二雄の本領がより存分に発揮されるのだろうという感じがする。
【名場面】
 
あたしたちの死は、そんなむだなもんじゃないわ。おおぜいの人の舌を楽しませるのよ。(1巻p.34)「ミノタウロスの皿」
そうか・・・正ちゃんに子供がね・・。
と、いうことは・・正ちゃんはもう子供じゃないってことだな・・・な・・・。(1巻p.322)「劇画オバQ」
 
そしていまやあたしたちは有史以前から地球上に発生したあらゆる生命体の代表なのよ。
一人でいいの。一人生き延びれば充分なの。
だから一日でも永く生きる責任が・・(4巻p.41)「カンビュセスの籤」
これは経験してみてわかったことだが・・
若いということは想像以上にすばらしい、すばらしすぎるんだ!!
世界中の富をもってきてもつりあわないだろう。
ようするにこの取り引きは不公平だった。(4巻p.250)「未来ドロボウ」