自虐の詩 上下巻(業田良家/竹書房)
これは、すごい。最初の部分は普通の4コママンガだったけれど、回を重ねて、それぞれの登場人物のエピソードが積み重なっていくごとに、どんどんそのキャラクターの厚みが増していって、その背後に存在する人生を感じさせるまでに成長していくのがわかる。4コママンガなのに、ストーリーマンガ並みに、物語がどんどんと進化していくというのは、かなり衝撃的だった。
しかも、追加されていくのは、新しいエピソードではなく昔のエピソードで、成長するのはキャラクター自身ではなく読者の認識のほうだという、ものすごい倒置。キャラクターは何も変わっていない。ただ、その人物が歩んできた歴史が明らかになっていくのみ。
この感覚は、初対面の印象では表面的な部分しかわからなかったことが、つきあいを重ねるごとに段々と本質的な部分が見えてくるという、現実の人間関係に近いものがある。
歴史が明かされる過程で、まったく不規則に、話しが現在と過去とを行ったり来たりするのだけれど、それが全然気にならない。
それぞれの家庭のことというのは、そこにいる当人にしかわからないことがある。周りから見て、どれだけ幸せに見えても、不幸せに見えても、実際のところどうなのかということは、その家庭の中にいる当事者にしかわからない。当事者にさえ、本当のところは永久にわからないかも知れない。
この、単純には割り切れない、家族というものの不思議さを、ユーモアを交えながら表現したこのマンガは、文学を遥かに越えた、どのようなジャンルにもあてはまらない、不朽の作品だと思う。