戦後の日本で、子供の頃からアメリカ流の教育を受けて育った自分たちには、民主主義こそがこの世で最も優れた物事の決め方だという刷り込みがある。
実際には、議会制民主主義はフランス革命以後ようやく芽生えた新しい概念にすぎないのだけれども、それ以外の政治体制を経験していない場合、民主主義の善悪を他の形態と比較して相対的に考えることは難しいだろう。
「マンダレイ」は、ラース・フォン・トゥリアー監督の「ドッグヴィル」の続編として作られた。前作と同様、舞台演劇的な最小限のセットで構成されていて、しかもそのメッセージは前作よりも更に痛烈に、尖鋭的になっている。
舞台は、奴隷制度が根強く残る南部の「マンダレイ」という町。大農園では、白人の支配の下、多くの黒人が奴隷として働かされていた。そこに、主人公の、美しい理想主義者、グレースが偶然立ち寄ることになる。グレースは、マンダレイの姿を見て、義憤から町の改革に取り組むことになった。
残念ながら今回、グレース役はニコール・キッドマンではなく、ブライス・ダラス・ハワードという女優に交替してしまったけれども、これはこれで、雰囲気が出ている。
グレースには、マフィアのボスの娘という、他人を自分に従わせるに充分な強い権力がある。そして、彼女は民主主義こそが人間にとってあるべき姿で、それ以外の考え方は野蛮で古めかしいものだと信じて疑わない。その強引なお節介さは、他人の国にまで出かけていって、自分の国のやり方を押し付けようとするアメリカの姿とよく似ている。
時計の時間までも民意によって決めようとするグレースの統治は、のちに大きなひずみを生むことになる。神ではない人間が、神の役目を果たそうとした時、何が起こるか。とてもとても考えさせられる、寓意に満ちた作品だ。
【名言】
「マンダレイは、私たち加害者の贖罪の場なのよ」
「侮蔑的なことだと思わない?人を分類するなんて」
「あなたは理想主義者だ。この農園の外では生きていけない」
「あなたのお父様は常に我々に仕事を与えてくださいました」