KYOKO

KYOKO
KYOKO(村上龍/幻冬舎)
不安や、自信のなさ、人をうらやむ気持ち、などは、自分に必要なものと、必要ではないものの区別がついていないことから来るのだと思う。
「何かが足りない気がする」という状態は、その「何か」が自分でわかっていない限り、永遠に解消されることはない。
「自分はこれさえ出来ていればいい」というラインが明確にわかっていれば、基本的に、心は平穏だ。
お金も友達も、多いほうがいいというのはその通りだと思うけれど、あれもこれも手に入れておきたいとなると、本当に自分にとって大事なものに集中するして大事にすることが出来なくなるし、心がザワつく。
満ち足りているというのは、色々なものをたくさん持っていることではなく、必要なものだけを過不足なく持っていることなんだろうと思う。
この小説は、小さい時にダンスを教えてくれたホセを尋ねて、お礼を言いにニューヨークに渡るKYOKOという少女の話しだ。
手がかりをたどって、ようやく出会ったホセは、しかし末期のガンに侵されていて、KYOKOのことも誰だかわからない状態だった。そのホセの、母親に会いたいという最後の願いをかなえるためにKYOKOはニューヨークからマイアミまで、ホセを乗せてバンを走らせる。
KYOKOは、自分にとって本当に大事なものをよくわかっている女性だ。必要以上のものを欲しがらない彼女の生き方はシンプルで、周りを惹きつける美しさと強さが備わっている。
初めて渡ったアメリカという土地で、有色人種やHIVキャリアに対する差別と偏見にさらされても、KYOKOは自然に、しかし毅然と対応をする。
精神の気高さというのは、人種や国籍を超えて理解されて尊敬を受けるものだ。とてもとても大きな希望を与えてくれる小説だった。
【名言】
「ホセはわたしを助けてくれて、救ってくれたの。ただダンスを教えてくれただけなんだから、オーバーに聞こえるかも知れないけどね、わたしにとって一番大切なものは何かって教えてくれたんだから、そうでしょ?どんなことがあってもこれがあれば生きていけるってものを教えてくれたんだから、救ってくれたのよ。(p.117)」