容疑者Xの献身(東野圭吾/文藝春秋)
殺人を犯した母娘を救うために、隣りの部屋に住んでいた数学教師の石神が完全犯罪のトリックを構築して、警察の追及から逃れる方法を指南する。警察の側にも、石神と大学時代の同期であった物理学者の湯川がいて、物語は、この2人の頭脳戦の対決へと進んでいく。
石神が仕掛けたトリックは本当に緻密でよく練られていて、本格的な推理小説としても楽しめるし、石神と湯川という変わった取り合わせの2人の人間ドラマとしての部分もとても面白い。
「容疑者X」というのは、母娘のために、警察を欺くためのトリックを構築して、自分に疑いの目を向けさせた石神自身のことだ。彼の「献身」というのがどういう意味なのかは、物語の中で明らかになる。その言葉が示す真相には、かなり驚かされた。
物語の構成も、伏線の張り方も巧く、完成度の高い小説だった。
【名言】
数学も同じなのだ。崇高なるものには、関われるだけでも幸せなのだ。
あの母娘を助けるのは、石神としては当然のことだった。彼女たちがいなければ、今の自分もないのだ。彼女たちは身に何の覚えもないだろう。それでいい。人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある(p.345)