Yの悲劇(エラリー・クイーン/東京創元社)
名作の誉れ高い作品だけれども、あまり響いてこなかった。
物語の導入部分や、ハッター家の紹介のところなどは、いったいこの家族に何が起こるのだろうとかなりワクワクしたのだけれど、その後、期待していたほどの広がりは見せなかった。
登場人物に魅力が感じられないということや、差別的な描写や発言が多いことや、探偵役のレーンの価値観や行動に共感出来ないところ、などなどが読後にさっぱり納得感がなかった理由だと思う。
しかし、謎解きの部分の構成は、とてもよく出来ていると思った。伏線や材料はきちんと、作品の中に余すところなく提示されているし、読者との情報共有の仕方も非常にフェアだ。この、予想をはるかに上回る見事さには驚いた。
意味不明な騙しうちのようなことはなく、種明かしの過程での論理的整合もきちんとしていて、少なくとも、「なんじゃこりゃ!」という憤慨はまったくない。この点について言えば、読む価値は充分にある。
これで、謎解き以外の部分も含めて感動できていれば、間違いなく「好きな本」のリストに入っていたと思うのだけれど、物語全体で考えると、感覚的に、あまり好きになれる作品ではなかったのは残念だ。
【名言】
この家こそ、一世代にわたってとかくの評判を生んだ後、以前に起こった事件などはすべて、偉大なドラマのほんの序幕にすぎなかったと思われるほど苛烈きわまりない悲劇の舞台となる運命をもっていたのだ。(p.34)
あなたは、ご自分の職業道徳をこの上なく忠実に履行なさってこられたのです。だが、それと同時に、いま人間の道そのものが、思いきった措置をとるように迫っているのですよ。(p.292)