海辺のカフカ (上)(下)村上 春樹 新潮社
【コメント】
世界のほうぼうを旅することだけが冒険ではなく、一つの町や建物の中に留まっていたとしても人の心はどこまでも果てしなく遠くまで行くことが出来るのだと思った。
見た目や世間的な常識とは関係なく、あるべきところにあるのが物の正しいありかたで、するべきことをするのが人の正しい生き方なのだ。
自分はこの本を読んでそんなことを思ったけれども、それがこの本のテーマというわけではまったくないだろう。テーマはとらえどころがなく、おそらく正解もない。
他の人がはたしてどういう感想をもったのか、とても聞きたいと思う作品だ。
【名言】
僕らの人生にはもう後戻りができないというポイントがある。それからケースとしてはずっと少ないけれど、もうこれから先には進めないというポイントがある。そういうポイントが来たら、良いことであれ悪いことであれ、僕らはただ黙ってそれを受け入れるしかない。僕らはそんなふうに生きているんだ。(上巻p.343)
ナカタさんの人生がいったい何だったのか、そこにどんな意味があったのか、それはわからない。でもそんなことを言い出せば、誰の人生にだってそんなにはっきりとした意味があるわけじゃないだろう。人間にとって本当に大事なのは、ほんとうに重みを持つのは、きっと死に方のほうなんだな、と青年は考えた。死に方に比べたら、生き方なんてのはたいしたことじゃないのかもしれない。とはいえやはり、人の死に方を決めるのは人の生き方であるはずだ。ナカタさんの死に顔を見ながら、青年はそんなことを考えるともなく考えた。(下巻 p.399)