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天(福本伸行/竹書房)

このマンガは麻雀を題材とはしているけれど、麻雀マンガというよりは、それを超えた人生論を主要テーマとしたマンガといっていい。
主人公は一応、「天」ということになっているが、影の主役は、圧倒的な存在感を持っているサブキャラクターである「赤木」という構造になっている。「スラムダンク」でいう、桜木と流川のポジションに近い。
赤木は、物語が進むにつれ、どんどん重要性を増していき、最後には完全に主役といっていい立場になる。途中から、もはや麻雀はまったく物語と関係なくなり、形而上的な対話へとステージが変化する。ここからが、この作品はものすごく面白い。
のちに、赤木を名実共に主人公とした「アカギ」という別作品が生まれたが、これほど特異で、魅力的なキャラクターもそうそうないだろうと思う。


【名言】
「命はつながっている・・随分前から・・俺はそんな考えを持つようになった・・人間としての俺が滅んだら、土くれになって、その後何千年か経って・・また何かに再生される。海に溶けた微生物か・・魚か・・犬コロか・・鳥か・・だから俺はいつ死んだって構わない。命は永遠。また再生されるんだからな・・。ただ唯一問題なのは、人間としての俺がくたばった時。この「俺」だという気持ち、意識が吹っ飛ぶ・・そこが問題だ・・つまり平たく言やあ・・死ぬことは恐くない。いつでも死ねる。俺が恐れるのは、俺が俺でなくなること。それだけはご免だ。そこだけは譲れない・・わかるか・・?(10巻)
常々・・逆だと思っていたんだ・・。通夜のことさ。死んでからみんなにワラワラワラワラ集まってもらったって、死んだ当人には何が何やら分からぬ。せっかく集まってもらうなら、死ぬ前だ・・。死ぬ前に会い、話しがあるなら・・話しておくべきだ。(16巻)
動物といっしょや・・ヤツは能力が尽きたら死にたいのよ・・。虎や熊や鷲、なんでもいいんやが・・動物はみな、おのれの突出した能力によってその生命を支えとるやないか・・例えば・・猛禽類の王、鷲。鷲は天空を舞う翼と、獲物を八つ裂きにする爪、くちばし・・それらによって命を支えている。つまり・・能力、才能がすなわち「生」。野生動物は、だからこそ、ただ・・生きているだけで・・美しい。在り方がシンプルで・・無駄な欲がないから美しい・・。いうなら・・機能美ってヤツやろ。(17巻)
「1」どころか、「3」はあるだろうよ・・。3%は生きたい。未練がねえわけじゃねえさ。仕方のない・・「3」なんだ・・。生きたいという気持ちは完全には消せない・・「3」くらいは混ざる。混ざらざるを得ない・・。まるっきりスッキリってわけにはいかねえ。どう頑張っても・・混ざるものは混ざる。なら・・これはもう・・甘んじて受けるしかない・・そうは楽に死ねないと・・諦めるしかない・・これが死の味と・・観念するしかない。(17巻)
おいおいっ・・何考え込んでんだよお前・・。俺を生かしたいと思うなら、こんなもん・・即受けだよ・・即受け。考えるな・・「負け」の可能性なんて。今回みたいな場合は、ただ「勝ち」に賭けりゃいい。
「正しい人間」とか「正しい人生」とか・・それっておかしな言葉だろ・・?ちょっと深く考えると、何言ってんだか分からないぞ。気持ち悪いじゃないか・・正しい人間・・正しい人生なんて。ありはしないんだって・・そんなもの元々。ありはしないが・・それは、時代時代で必ず表れ・・俺たちを惑わす。暗雲・・俺たちはその幻想をどうしても振り捨てられない・・。一種の集団催眠みたいなもん・・まやかしさ・・そんなもんに振り回されちゃいけない・・。とりあえずそれは捨てちまっていい。そんなものと勝負しなくていい。そんなものに合わせなくていい・・つまり、そういう意味じゃ・・ダメ人間になっていい。
お前の言う通りさ・・俺は狭いっ・・俺はただ生きる・・ただ生きてれば事足りる・・というような考え方・・つまり、人は生きているだけで価値がある・・というその手の感性・・御託が嫌いだった・・。ひねくれ者なんだ・・元々・・。(17巻)