『血の轍』生き残ってしまった者は、何があろうと生き続けなければならない


『血の轍』全17巻(押見修造/小学館)

17巻で、ついに完結。
途中で突然終了してしまうのではないかと、完結するまでは心配だったけれども、きちんと終わってくれてよかった。

この話、途中からものすごい勢いで面白くなってくる。中盤は、衝撃で貫かれる場面がかなりあった。

隠していた、母親の罪が明るみになった後あたりが、最初のクライマックス。
もともとは親しくつきあっていて、静一に対しても気遣いを持っていた、ダンナの兄夫婦と泥沼の法廷闘争になっていく変貌ぶりは、ほんと、人間の恐ろしさを感じる。

そして、13巻から、20年後の続きが始まるのがスゴい。
ここからが「本章」突入なのだという。それまではプロローグに過ぎなかったということか。

20年経ってるわりに、母親は全然老けてないなと思ったら、静一から見たビジョンだから歪曲されているという意味だった。
認識は、彼我の間でこれほどに違う。マンガならではの、ものすごい表現だと思う。

父親は、温厚で自立した父親ではあったけれど、家族の問題と向き合わずに目を背けていたということでは、この人も同罪なのかもな。

静一も、最終巻で母親が言っていたように、世間とのズレを笑い飛ばせるメンタリティーであれば、もっと楽に生きられたんだろう。
いろいろとシリアスにとらえ過ぎることや、母親をかばおうとする優しさゆえに、かえって自分自身や母親を苦しめる結果になった気がする。

少年時代から始まり、中年、老年までを通して描いたタイムスパンは素晴らしかった。
通常なら、少年は無力なまま、母親は美しいままで物語は区切られているはずで、そのフレームの外側は読者には見えなかったはずだ。
時の流れの平等さと残酷さを痛感した。

生き残ってしまった者は、何があろうと生き続けなければならない。
静一は、正面から向き合う強さを持てたがために、穏やかな老境に達することができた。
それは、この物語の中での、数少ない救いだ。

あらためて、また、1巻から最後まで、通して読み直してみたい。
この物語の終わらせ方は難しかっただろうと思うけれども、とにもかくにも完結してくれて良かった。