僕のなかの壊れていない部分

僕のなかの壊れていない部分
僕のなかの壊れていない部分
(白石一文/光文社)
【コメント】
主人公の考え方や行動には独特なところがあり、はじめは不可解なところが多いけれども、主人公自身のおかれた環境や過去が明らかになっていくにつれて、だんだんとその思想の背景を理解出来るようになってくる。
作品が問うているのは「何のために生きるか」という普遍的で曖昧なテーマだ。しかしそれを、難しい言葉を使ってごまかしたり高尚に見せることなく、真っ当な手順でストレートに表現をしていると思った。
こういうテーマは作者の独りよがりの結論になりがちで、受け容れにくいこともあるのだけれど、この小説は共感出来る部分がとても多かった。
【名言】
僕はいつも彼女に向かって問いかけている。僕はきみとずっと一緒にいることで、一体どうなるのだろうかと。僕たちは二人でいることで、生きる意欲やゆとりや安らぎや慰めを超えて、生きること本体の深い意味にどこまで近づくことができるのだろうかと。きみはその点についてどのくらいの保障を与えてくれるのだろうかと。(p.199)
人間がただひとつ意思を発揮する場があるとすれば、他人の生を創造するということだと僕には思える。
しかし、なぜそんなことを人間はやらかしてしまうのか、それが僕にはよく分からない。なぜなら、他人の生を生み出すということは、そのままその他人の死を生み出すことと等しいからだ。人を生むことは、その人を殺すことでもある。(p.244)
いずれは、直人君も直人君と別れてしまうときがきて、こうやって亡くなった大勢の人たちと混ざり合って、一陣の風になって吹き渡るんだよ。だったら、生きているうちに、できるだけ自分のことなんか忘れて、他人のことを考えられる人間になって欲しいって思う。(p.246)