孤独のグルメ

孤独のグルメ (扶桑社文庫)
孤独のグルメ (谷口ジロー/扶桑社)

ただのグルメマンガではない。まず、ストーリーといえるほどのものが、何もない。ただひたすら、一人の男が、あちこちの町の食堂でメシを食べるだけという、ある意味グルメマンガの究極とも言える作品だ。
マンガ版「食いしん坊万歳」のようなものかもしれない。ただ、テレビ番組と違って、主人公の井之頭五郎は、味をほめることもしないし、大げさに喜ぶようなこともない。ただ一人、頭の中で「ん・・うまい・・」と独白するだけだ。
主人公は、食にこだわりがあるが、かといって食のプロではない素人グルメの中年男。そのくせ酒はまったく飲めない、というちょっと変わった設定。職業や来歴などがよくわからないのも、いい雰囲気を出している。商社を一人で経営しているらしいことや、昔、何かのスポーツをやっていた、程度のことは察しがつくのだけれど、それ以外はまったくの謎だ。
「美味しんぼ」のような派手さはないけれど、その分、主人公の感覚に共感が持てる部分が多い。かなり独特な路線をつきすすんでいる作品であることは間違いない。常に独りで、店の人と会話をするようなこともまったくない主人公だが、作品中で一回だけ、店員に対して自分の意見を主張するところがあって、そこが見所。