I’m sorry、mama.(桐野夏生/集英社)
また、ハンパなくダークな人物を主人公にして小説にしたものだと思った。
登場人物も、どこかしら破綻していたり、心に闇を抱えた人たちばかりで、ダークファンタジーのようなおどろおどろしさに満ちている。
「グロテスク」や「OUT」も、救いのなさが基調になっていたけれど、この作品は、話しが短くまとまっているためか、あまり一人一人を掘り下げることなく、わーっと詰め込んで、勢いで進んでいったような感じだった。主人公のアイ子が、考えるよりも先に行動を起こすタイプなので、その分話しのテンポがアップしているということもある。
衝動にまかせて行動して、刹那的に今だけを考えて生きて、面倒なことは先送りするか逃げ出すかする、という処世術を突き詰めると、この主人公のような生き方になるのではないかと思った。
それにしても、こういうダークな小説を書かせれば、桐野夏生の右に出るものはいないなあと感心する。
【名言】
娼婦の館で育ったアイ子には、金がすべてだった。金さえあれば、幼児でも生きていけると学んだのだろう。(p.47)
放っておいてほしかった。アイ子の脳味噌は、常に目先のことしか考えられない構造になっている。今やるべきは、危険を避ける本能に則った行動、原理。アイ子に都合の悪いことを喋ったり、書いて送り付けたりする奴を探し出して消すことだ。(p.160)