野垂れ死に(藤沢秀行/新潮社)
この生き様はカッコいい、と思うけれど、他の人に真似出来る生き方ではないだろうとも思う。囲碁では天下無敵でも、それ以外のすべてが破綻しているという極端なバランス。
たぶん、本人がみずから書いたのではなく、本人の談話をもとに他のライターが書き起こした内容だろうと思うので、その分、ちょっと迫力は落ちる感じがするのだけれど、単純に、その歴史の中に起こった出来事を見ただけでも、すさまじい波乱万丈の連続であることがわかる。
これほど浮き沈みが激しい人生はめったにないだろうけれど、面白さでいえば、これほどに充実した人生というのも、そうそうないだろうと思う。
【名言】
私の車券買いのスタイルは「一本買い」と「転がし」だった。これと決めた目を一点で勝負し、当たれば浮いた分をそのまま、次のレースに注ぎ込む。勝ち負けの大きい危険な先方だが、そのリスクが私をしびれさせた。
そして、勝っていようが負けていようが、有り金全部を最終レースで勝負した。結局、すべては最終レースにかかることになる。儲かった分をキープするとか、途中でやめて勝ち分を確定させる、という発想を持つことができない。(p.48)
私にとって、酒は、必要欠くべからざる「安定剤」だった。
酒さえ飲まなければもっと大きな仕事ができたのではないか、と私の生き方を見てそう思われる方がいるとしたら、私はこう反論したい。
酒があったからこそ、あれだけの碁が打てたのです、と。(p.81)
碁には、恐ろしいほど、人物が出る。個性、生き方、碁に対する姿勢など、その人のすべてが凝縮されて盤面に表れてしまう。それが譜となって後世に残るのだから、一局一局の勝った負けたで騒いでいる場合ではない。(p.90)