青の炎(貴志祐介/角川書店)
少年犯罪がテーマだけれども、謎解きや推理小説の類ではなく、少年の心理描写にテーマの中心をおいている。「人を殺すのが何故いけないのか」という、一時期よく耳にした議論への、一つの明確な回答がこの作品だと思う。最初から最後まで、読んでいて悲しい話しだった。
【名言】
「ようやく、実感を持って、理解することができた。人を殺すというのは、こういうことなのか。眠っている間は、自分が人を殺したという記憶から目をそむけ、事実を否定することができる。悪夢は、目覚めたときから、始まるのだ。完全に覚醒して、自分が人殺しであることが、けっして夢などではなく、動かしがたい事実であったことを悟ってから・・・。
やってしまったことは取り返しがつかない。
時間は、元には戻らない。
記憶は、けっして忘れ去られることはない。
生涯が終わる、最後の一日まで。
秀一は、目を閉じた。ほんの束の間でも現実を忘れ、夢という、優しい嘘で造り上げられた世界の中に逃避するために。」(p.220)
「この先、人生にどんなに楽しいことがあったとしても、どれほど感動する出来事に出会えたとしても、しばらくたてば必ず、自分が人殺しであるという事実を思い出していることだろう。」(p.318)
「学校と自宅とを往復する際、周囲のものは、何一つ、目に入らなかった。世界は、まるで白黒のフィルムのように、色褪せていた。
それが、今は、なぜ、こんなに美しく見えるのだろうか。前途には、もはや何も待っていないというのに。」(p.381)