団地ノ記憶(照井啓太/洋泉社)
自分は、1970年代に開発された、横浜南部の新興住宅地で育った。
駅を中心として、その周辺には大きな団地が無数に集まっていて、その中には一つの敷地の中に40棟を超える建物をかかえる、巨大な団地もあった。
小学校・中学校時代の友達は、ほとんどみんな団地に住んでいたので、自然と遊び場は、団地の中の広場や公園になる。夏には祭りが開かれ、集会所では習い事の教室や催事があり、そこは小さな近代的な一つの村だった。
そんな環境で過ごしたこともあってか、団地というものには、特別な愛着とノスタルジーを感じる。自分以外にもそういう人はいるようで、この本を見つけた時には、同好の士に出会った気持ちで、とても嬉しかった。
都市部に流入する人口を受け入れる器として、高度成長時代と共に急激にその数を増やしていった「団地」は、規格化された工業製品のような雰囲気がある。
極めて高い容積率と同時に、コストパフォーマンスも追及した団地というものは、時代が生み出した一つの芸術品だと思う。それは、ある時期には必要とされても、この先の日本では、おそらく二度と必要とされることのないものであるのだろう。
当時は真新しかった団地も老朽化を迎えて、その多くは今、建て替えられるか、解体されるかしている。その、失われゆく記憶をとどめておく意味でも、こういう本は貴重な存在だと思う。