言い寄る 全2巻(花津ハナヨ・田辺聖子/小学館)
かなり良かった。
原作の、田辺聖子氏の本は読んだことがないのだけれど、相当味わいのある小説を書く人なんだと思った。下地となっている原作がいいのはもちろんのこと、絵もいい。
「言い寄る」というシンプルなタイトルに込められた、人の心のままならなさと切なさが、見事に表現されている。人と人との相性というのは、努力や熱意だけではどうにもならない部分があり、そこにはタイミングとか無意識とか、何とも説明出来ない力学がはたらいているのだろうと思う。
原作が書かれているのは1978年。30年以上前!というのは衝撃だ。マンガでは、携帯電話などが登場しているので、かなり今風にアレンジが加えられているとは思うのだけれど、この驚異的な古びなさは、それだけ、この作品のテーマがいつの時代にも変わらず通用するほどに普遍的なものである証なのだろう。
【名言】
・・この手を、はなすわけにはいかない。
今日は帰すわけにはいかない。今日という今日は、五郎ちゃんとどうにかなっちゃわないとまずいのよ。(2巻p.46)
味なんかわからん・・
心が、ちょっとずつ死んでいく。
五郎ちゃんのこういう姿を、いつかあたしの部屋で見るのが夢だった。(2巻p.58)
あたしは悲しくて泣きながら一方で、「美々がうらやましい」なんて思っていた。
こうやって泣きわめいてたくさんの人に慰められ、ゴロちゃんに同情され、彼の心を傷つけることができる人間なのだということが。(2巻p.131)