『テスカトリポカ』【直木賞】アステカとマフィアの暴力性を圧倒的スケールで描いた大作


(佐藤究/KADOKAWA)

圧巻のスケールの超大作だった。
こういう壮大な物語が大好き。

最初の舞台はメキシコから始まり、その後、日本へ。
物語のスケールも大きいし、個性的な登場人物たちの常軌を逸した言動も痺れる。

クライムノベル、というジャンルに分類されるようだけれど、この手の小説の魅力は、自分たちが知らない、アンダーグラウンドな世界を疑似体験できることだと思う。

そういう非日常の中に没入できることこそが小説の面白さであり、その点、この『テスカトリポカ』は細部まで丹念に、臨場感あふれる筆致で描かれていて、申し分なく没入できるリアリティーがある。

マフィアやヤクザ者にとっては、暴力こそが自らの権力の源泉になるために、暴力は常に身近にあるし、その力を行使することにも躊躇がない。

その倫理観は、ある種、古代アステカ文明の人々に近いものがある。
何百人もの、生きた人間の心臓を取り出して、神殿への供物として捧げた民族。

自らが信仰する神こそが絶対で、その神が命ずるままに、邪魔になるものは徹底的に排除する。

それは、身命を賭してボスの命令に従って、自分の命も他人の命も顧みることなく抗争に明け暮れるマフィアの世界に近しいものがある。

この共通項を見つけ出して一つに結びつけた、筆者の着眼点こそが、『テスカトリポカ』がこれほどの傑作になった大きな要因だと思う。

しかし、それだけではなく、一般の市民が知りようのない、武器密輸、麻薬製造、臓器売買、人身売買、といった闇のビジネスについて、とても詳しく取材をしただろうことがよくわかる。

小説というものが持つパワーと面白さを存分に味わうことができる傑作だった。