数奇にして模型


数奇にして模型(森博嗣/講談社)

純粋なトリックというよりも、犯人の精神異常という形で収束させた点は、ちょっと納得はいかなかったけれど、常識をくつがえされる面白さは味わうことが出来た。でも、動機もよく理解出来ないし、現実味があまりない分、納得感は少ない。シリーズの他の話しに比べると、犀川の冴えが鈍かったような気はする。
今回のテーマは、異常と正常の区別、個人とその外を分ける境界、というような話しだったけれど、その点でも、あまり興味深いテーマではなかった。

【名言】
自分は一つだろうか、と思った。
自分は、どこまでで一つだろう?
生きていれば一つなのか?
生きているうちは、どうにか一つなのか?(p.292)

犀川はデスクの上のカップを持って立ち上がり、コーヒー・メーカまで行く。萌絵は、犀川を追って振り向いた。彼の表情にはほとんど変化がなかったが、視線が微妙に振動していた。それは、犀川が目まぐるしい思考を繰り返している証拠だ。それに気がついているのは自分しかいない、と萌絵は自負している。(p.408)