愛の妖精(ジョルジュ・サンド/岩波文庫)
双子の兄弟と、一人の少女を描いた、とてもすがすがしい物語。
結局、登場人物みんな根はいい人、というところが、このすがすがしさの理由なのだろう。
都市部なら人の評判というのも、それほど気になるものでもないだろうけれど、農村の閉ざされた環境では、村人の評判というのはかなりの影響力を持つ。
そのような中で、いったん悪い評判(そのほとんどは誤解なのだけれど)を立てられてしまった少女が、どのように変貌を遂げて大逆転をするか、という物語で、これはもう、少女マンガの黄金パターンである気がする。
ためしに、「花より男子」を例にとって置き換えてみると、
『私立高校という閉ざされた環境(→農村)で悪い評判を立てられた牧野つくし(→ファデット)が、高校で実権を持っている道明寺司(→ランドリー)に反抗して楯突くが、つくしは次第に成長をしていき、そのうちに二人は仲良くなって、ライバル(→マドレーヌ)の妨害や、周りの仲間(→シルヴィネ)の反対を押し切ってつきあう。』という流れになる。
ほぼ問題なく、置き換えられそうだ。
スターウォーズが、「旅立ち→試練→帰還」という、神話の基本構造をプロトタイプにしているのだとしたら、世の多くの少女マンガの名作は、この、1851年に出版された「愛の妖精」をプロトタイプとしているのではないだろうか。
【名言】
もし一人一人に向かって、あの娘をどう思ってるか、あの娘がどんなことをしたか、正直に本当のことを言ってくれって言や、みんなあの娘のいいところしか言えないのさ。ところが、世間てやつはこうしたもんで、二三人の人間が誰かに難癖をつけると、みんないっしょになって、よくわけもわからずに、石を投げつけたり、悪い評判をたてたりするんだ。(p.213)