柔らかな頬(桐野夏生/講談社)
子供の失踪と、自分自身の「原罪」の関係を、細かい心理描写によって語った小説で、単純な家族愛を描くようなことはなく、家族の中にこそ存在する孤独をテーマにしたような作品。
推理小説としての構成は、かなり意表を突かれる。
真実は、事件に関わった人の数だけあるという多面性を含んだストーリーになっていて、とても独特な小説だった。
【名言】
拗ねようが何しようが、カスミと代わる者がどこにもいないのと同様、自分の運命と代わる者もいない。世界中、どこを探してもいない。おまえは、自分以外の人間は皆自分とは違う、というわかりきった真実を経験したことがあるか。俺の腹の痛みがおまえに伝わるか。(p.289)
悪くなんかないよ。あんたの人生なんだから。私はね、あんたに滅茶苦茶にされるのだけはごめんだと思って、気張って生きてきたの。あんたも頑張って。(p.328)