とても面白かった。
「幸福」という曖昧なものを、きちんと定義づけて、分析可能な状態に噛み砕いてから理路整然と説明していて、納得感が高い。
「重力問題」というのは、重力を努力で消すことができないことから、自力で解決することが不可能な問題のことを言う。
人生設計をするための最初のスタートは、自分の努力でなんとかなる問題と、ならない問題を区別することだ。
そして、どうにもならない問題はきっぱりと忘れて、どうにかなる問題にリソースを集中させること。
日々たえまなく突きつけられる選択には大きなコストがかかる。
橘さんの定義では、「迫られる選択が少ないほど幸福な状態である」という。
世の中に、金があれば解決できる問題は多い。
金で解決ができることは、悩む前にさっさと金で解決をしてしまったほうがいい。
どちらも食べたい100円のミカンと100円のリンゴがあった時、財布に100円しかなければ、トレードオフでどちらかを諦めざるを得ない。
一番合理的で、タイムパフォーマンス(時間対効果)が高い解決方法は、財布に200円入れて買い物に行くことだ。
もうひとつ、腑に落ちたのは、マキシマイザーとサティスファイサーの違い。
マキシマイザー(利益最大化人間)は、選択肢が飛躍的に増えている高度消費社会では破綻する。どれを選んでも「もっと良い決断ができたのではないか」と後悔して、その結果、何も決められなくなって、「あのとき決断しておけばよかった」とふたたび後悔する。
だから、サティスファイサー(満足化人間)になるべき。それは、「まずまずいいものでよしとして、どこかにもっといいものがあるかもしれない、とは考えない」ひとのこと。
自分なりの基準を持って、「サイズ、品質、値段の基準を満たすセーターが一軒目で見つかったら、それを買っておしまい。角を曲がった先に、もっといいものがあるかもしれない、とは考えない」。
今の時代にマッチしているのは、サティスファイサーの人間。
そして、パフォーマンスが計測できない世界では、成功するかどうかを決めるのは、ネットワークのどこに位置しているかによる。
会社の出世なんかも、典型的な例だと思う。学校のテストと違って、仕事の能力は客観的な指標がないぶん、誰の派閥にいるかといった要素が重要になってくる。
これなんかも、自分の努力でどうにもならない部分で頑張るのではなく、なんとかなる部分を見つけて、そこに力をそそぐべき、ということだろう。
これこそ合理的な考え方、というもので、人生の早いうちに読んでおくべき本であると思う。
名言
選択をする必要が少なければ少ないほど、人生はよりゆたかになる。(p.24)
人間関係には大きなコストがかかる。(p.35)
ウォーカーは、ADHDと診断された子どもの半数以上が、実際は睡眠障害ではないかという。それにもかかわらず、集中力を高めるために、強力な覚醒作用があるドラッグが「治療薬」として処方される。その結果、夜になっても眠れなくなる悪循環にはまりこんでしまう。(p.51)
株式市場には秒単位の膨大なデータがあるのだから、それを統計解析して騰落を予想できれば、そこから得られる富は天文学的なものになる。当然、多くの数学の天才たちがこの課題に挑んだが、けっきょくのところ統計学はなんの役にも立たなかった。それは株式市場がベルカーブ(正規分布)ではなく、ロングテール(べき分布)の複雑系だからだ。(p.114)
バリー・シュワルツは、選択肢が多すぎる場面で完璧な答えを探す「マキシマイザー(利益最大化人間)」は、「もっといい選択ができたのではないか」といつも後悔することになるという。一方、あらゆるリスクを回避しようとする「ミニマイザー(リスク最小化人間)」は、ひたすら現状にしがみつくしかなくなってしまう。
そう考えれば、完璧な選択を目指すのではなく、適度なリスクをとり、トライ・アンド・エラーで一歩ずつ成功へと近づいていく「サティスファイサー(満足化人間)」の戦略が、幸福な人生を実現できる可能性が高いのではないか。(p.132)
自分と似た相手と友だちになるのは、ヒトには「同類生(ホモフィリー)」という強固な本王があるからだ。「類は友を呼ぶ」ことで、ごく自然に似た者同士が集まり、似ていない者は集団から排除される。(p.251)
家族と友だちでは、関係の維持に重要なちがいがある。
誰もが経験しているように、日常的に顔を合わせない友だちとは疎遠になっていく。高校に進学して新しい友だちができると、中学時代の友だちは「同心円」の外側に移る。大学進学で故郷を離れた高校生を対象にしたイギリスの縦断研究では、定期的に顔を見せなくなると数ヶ月で友だちリストから外され、わずか2年で友人からたんなる知り合いに格下げされてしまった。
それに対して、大学進学や就職などで実家を離れ、ずっと連絡しなくても、親子やきょうだいの関係は変わらずに維持される。血縁関係は、友だち関係に比べて、メンテナンスのコストがずっと低い。(p.257)
パフォーマンスが計測できない世界では、成功するかどうかを決めるのは、ネットワークのどこに位置しているかなのだ。(p.286)
ギブしても減らないものは2つある。
ひとつは、面白い情報を教えること。もうひとつは、面白い知り合いを紹介することだ。ネットワーク社会の「ギバー」とは、この2つをせっせとやっているひとのことだ。(p.301)
インデックス投資の最大の優位性は、銘柄選択などの面倒がいっさい不要で、圧倒的にタイパが高いことだ。ほとんどのひとにとって、富は人的資本からしか生まれない。数十万円の貯金をどのように運用しようか考えるのは、端的にいって時間の無駄だ。毎月定額をインデックスファンドで積み立て、余った時間を仕事や勉強、友だちや恋人とのつき合い、家族のイベントなどに使った方が、人生のコストパフォーマンスはずっと高くなるだろう。
「資産運用でもっとも大切なのは、資産運用を考えないこと」なのだ。(p.179)
マイホームの購入はひとつの不動産に全財産を投資することなので、天変地異などで家の価値が失われると回復不能の損害を被ってしまう。それに対してREITは複数の不動産を保有しているので、そのうちいくつかが被害にあっても、全体の資産価値はさほど変わらない。
このように考えれば、「現金でマイホームを購入するより、REITに投資して配当を家賃に充てたほうがいい」ことになる。この結論を否定するにはファイナンス理論を根底から覆すしかない。(p.183)
高度化した知識社会では、人的資本(高い専門性)をもたない者は、会社(労働市場)のなかで「居場所」を失い、うつ病など精神疾患のリスクが高くなる。人的資本を一極集中するエッセンシャル思考を勧める第一の理由は、金銭的な報酬が増えるからではなく、こころの健康維持なのだ。(p.204)
生き物には38億年の長い進化の歴史があり、ニッチ戦略は「ナンバーワン」をめぐる激しい競争のなかで生まれた唯一の正解だ。人間の浅はかな知能で、それを上回る戦略を考えつくわけがない。(p.236)
「競争の本質は競争しないこと」にある。なぜなら、競争には大きなコストがかかるから。つねに敵との戦いにあけくれていれば、生殖のための資源がなくなってしまう。このようなコスパの悪い戦略は、冷酷な進化の法則によって、たちまち遺伝子プールから排除されてしまっただろう。
この残酷さは、人間世界でも同じだ。わたしたちも、それぞれの環境で「ナンバーワンになれるオンリーワンの場所」を獲得しなければ生き延びることができない。(p.237)
動くことのできない植物は可塑性が大きく、同じ種類で、同じ樹齢だとしても、何十メートルにもなる大木に育つこともあれば、盆栽のような小さな木になることもできる。その本質は「変えられないものは受け入れる、変えられるものを変える」ことだ。(p.239)