日々の泡


日々の泡(ボリス・ヴィアン/新潮社)

出てくる小道具や舞台設定が、どれをとっても幻想的で、とても美しい。
むりやり日本語にあてはめて訳している部分もかなりある感じなので、きっとオリジナルの原文はさらに美しい言葉で構成されているのではないかと思う。
物語の中に出てくるカクテルピアノというのは、特に幻想的な楽器で、一つ一つの鍵盤に異なったアルコールが結び付けられていて、演奏をし終わった後に、その音色によってブレンドされたカクテルが出来上がるというピアノだ。一体どのような想像力によって、こんなスゴい楽器が生み出されるんだろうと感心する。
ある日、主人公コランの恋人クロエが病気にかかってしまう。肺から睡蓮が咲く病気によって、どんどんと衰えていく。それをなんとか治そうと、有り金をすべて使いきり、あらゆる手を尽くしても、それでもどうしようもなく病状は悪化してゆく。なんだか、どうしようもない悲しさだ。
その悲しささえも、どこまでも幻想的に描き続けてしまうこの小説は、最初から最後まで、夢の中にいるような気持ちになる不思議な作品だった。
【名言】
なにが機械をつくることから妨げているかを知る必要がある。まず時間が不足しているはずだ。人はみな生きるのに時間を浪費しているよ。だからもう労働するだけの時間が残っていないんだ。もし機械をこしらえる時間があったとすれば、そのあとではもう何一つこしらえようとしなくなるだろう。ぼくの言いたいことは、彼らは労働せずに生きられる機械をこしらえる労働をしないで生きるために労働しているってことなんだ。(p.111)
「ぼくは貧乏人で・・」とコランは言った。「それでクロエが亡くなりました・・」
「なるほど」と修道士は言った。「ただし、どんなときでも、礼儀にかのうたお葬式をしてもらえるだけのお金は持って死ぬべきでありましょうな。ところでと、あなたは500ドゥブルゾンでもお持ちではないかな」(p.278)