CD&DVD51で語る西洋音楽史(岡田暁生/新書館)
西洋音楽の歴史を、初期グレゴリオ聖歌から現代音楽までを通して解説した本。それぞれの解説と共に、その時代の音楽が最もよくわかる51枚のCDとDVDをセレクションして、案内しているところがとても親切だった。
有名な曲ともなると、同じ曲でも様々な演奏や指揮者のバージョンがあって、そのどれがいいのかということは、なかなかわかりにくい。それを、自信を持って「このCDは、こういう理由でお勧め」という推薦をしてもらうと、躊躇なくCDを選ぶことが出来て、とても有難い。
バロックだのロマン派だの、そのあたりの作曲家や音楽であれば、音楽の授業で習ったこともあるから、なんとなく名前は聞いたことがあるけれども、それよりもずっと前の音楽や、現代音楽ということになると、さっぱり事情がわからないことが多い。
そこまで含めて、この本では、歴史と共に音楽がたどってきた道をなぞりながら説明してくれているので、どういう過程を経て音楽が進化を遂げてきたのかということが、時代背景と共によく理解出来るようになっている。
実際に、本の中で紹介されているCDを聴かないとイメージがつかない内容も多いけれど、音楽史の入門書として、ものすごくタメになる本だった。
【名言】
他の地域のどんな音楽とも違う西洋音楽固有の特徴としてしばしば言及されるのが、ポリフォニー(=複数の響き)である。つまり複数の音を、単に同時に鳴らすのではなく、その音程関係を絶えず一定のロジックに則って制御し、ノイズが生じないようにする。ノイズが生まれてもそれを音楽のロジックの中へ統合しようとする。それがポリフォニーなのである。(p.19)
ルネサンスに入るとともに、名の知れた作曲家の数が爆発的に増え始める。これはつまり、匿名の職人であることに満足せず、「他の誰とも違う私」としての自分の個性を強く意識する近代的な芸術家が、このころから多く現れ始めたことを意味する。つまりルネサンスに入って音楽の「多様性」が花開き始めるのだ。(p.39)
思うに近代音楽(ウィーン古典派およびロマン派)における旋律とは、フランス革命以後の、自立した個人の主観の表出ではないか。それに対してバロックの通奏低音の原理とは、個人が何か超越的な存在(神や王など)を離れて強く自己主張する自由を、人がまだ知らなかった時代の産物であったように思える。旋律という個人の主観は、通奏低音という大いなるものに抱かれて初めて、意味を与えられるのである。(p.59)
ワーグナーの一体何がそんなに凄いのか、その本当のところは、儀礼というものがすべてそうであるように、ライブで体験しない限り絶対に分からないだろうと思う。(p.127)
ウィーン生まれのユダヤ人だったシェーンベルクは、実質的に独学の作曲家だった。作曲教師として名高かったツェムリンスキーのもとでの作曲修行が、彼の受けた唯一の正規のレッスンであり、しかもしれは彼が二十歳になってからのことだったのである。私の知る限り、二十歳になるまで正規の教育を受けたことがなかった大作曲家は、音楽史において彼だけだ。(p.145)
シェーンベルクの無調がハーモニーという縦の次元の秩序を解体する試みだったとすれば、ストラヴィンスキーが行ったのは、リズムという横の次元の秩序の破壊だった。(p.150)