破裂


破裂(上下巻)(久坂部羊/幻冬舎)

医療ミスをめぐる裁判をメインとした、医療ミステリーといえるカテゴリの作品なのだけれど、肝心のミステリー部分は、あまり驚くような内容ではなかった。病院内部の閉鎖体質は、確かに特殊な部分があるのだろうけれども、それにしても登場人物の設定や言動にまるでリアリティーが感じられなかったことが、その理由ではないかと思う。
しかし、作品がテーマとしている、日本の高齢化社会が抱える問題と、それに対して官僚が密かに計画する抜本的な改善策の部分はとても興味深かった。ミステリー小説というよりは、医療問題を扱った社会派小説として読んだほうが楽しめる本だと思った。
【名言】
もちろん今だって、腕のいい医者、悪い医者はいるだろう。患者はみんな自分だけはいい医者にかかりたいって血眼になる。そうすると名医は忙しくなりすぎて、ミスをする。そうでなくても、どんな医者でもミスはするのさ。それを自分だけはぜったいに助かりたいって患者が、しゃかりきになっても運命は変えられないだろうよ。(上巻p.62)