登場人物の間で複雑に絡み合う恋愛模様と哲学的テーマ。「ハチミツとクローバー」

[amazonjs asin=”B00BXWDJL6″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”ハチミツとクローバー コミック 全10巻完結セット (クイーンズコミックス―コーラス)”]

見た目はソフトでも中身はハード

思いっきり青春を感じさせる、楽しさやツラさや切なさが満載な、美大生の日常生活を描いた、不朽の作品。
20歳前後の感受性豊かな時代を通過した誰もが経験したであろう、普遍的な感情や葛藤が、思いっきり詰め込まれている。

大きな主題となっているのは、それぞれに個性豊かな登場人物の間で複雑に絡み合う、(主に一歩通行の)恋愛模様なのだけれど、それとは別の軸として、「芸術表現とは」「自分らしさとは」といったような哲学的なテーマも、常に伏流にある。
絵柄がかわいく、文章が詩的であるために、パッと見の印象はかなりソフトだけれど、実際には、結構ハードで重い内容が扱われていたりする。
それでも、相当にノリを軽くしているので、重苦しさは感じない。この両極を見事に配合しているところが、このマンガのスゴさだと思う。

あと、特筆すべきは、人称(視点)が多いということで、「セリフ(口に出した言葉)+ナレーション(心の中の言葉)」の組み合わせによって異なる視点からの感情を表現したり、相矛盾する気持ちの葛藤を表現する、というのは少女マンガではよく使われる技法だけれども、「ハチミツとクローバー」では、ここにさらに、もう一種類別のナレーションがクロスオーバーするという離れ業がよく現れる。

それだけ、心理描写に力が入っているために、登場人物それぞれの細かい気持ちの動きがわかり、全員に必ず愛着が湧くようになっているのだろうと思う。
コマの隅や巻末のおまけマンガで存分に発揮される、遊び心のセンスも好き。

名場面


上手いコトバが無いんだよ
原田も理花も
恋人とも友達とも違った
ただ大事だったんだ
オレにとって
一生のうちの
一番大事だった時期を一緒に過ごして
同じ部屋で同じものを食べて同じ空気を吸って
もう自分のカラダの一部みたいに思っていた(2巻p.79)


きっと
月面ってこんなカンジじゃないのかな
なんて
そんな事ぼんやり
ただ
ぼんやりと
思ったりした(3巻p.30)


オレの欲しいモノ全部
手のひらにのせて
その手を閉じもしないで
乱暴に振り回して・・(3巻p.173)


声っていつまで覚えてられるんだろう
不安になって頭の中で何度も再生を繰り返す
思い出せる
まだ思い出せる
でももし
このまま二度と逢えないとしたら
最後まで残るのは
姿だろうか
それとも
声なのだろうか(4巻p.99)


まるでモノみたいに軽々と
思い出を放り投げる執着のなさ
この人から漂う身軽さのわけが解ったような気がした
そして
オレが惹かれる理由も
どこかこわいと思ってしまう理由も(5巻p.166)


オレは
あなたが帰ってきたら
「自分の中で何かが終わる」って・・
「こわい」って
「どうしたらいいんだ」・・って
なのに
神さま何でなんですか
また一緒にご飯が食べれて
嬉しいだなんて・・(5巻p.174)


君に会いたいなぁと思った
だから帰ろうと思った
はぐちゃんオレは
君が好きだよ(7巻p.159)


ただあの時オレは
胸いっぱいに幸せだと思ったんだ
ありがとうって思った
でも
あげられるものなんて心くらいしかないから
君にわたそうと思った(8巻p.12)


こんななにもしない時間なんて
どれくらいぶりかしら
そうか
みんなこの時間を
お金を出して買うのね(8巻p.114)


この箱を全部開けたい
でも全部開けるには人間の一生は短すぎる
人生が400年あればいいのにと仕方のない事を考えてしまう
人ひとりの人生では
開ける箱の数に限界がある
でも一緒に戦ってくれる人がいれば・・(9巻p.15)


人生が何の為にあるのかって
大事なひとの手を
こういう時に強く
握るためなんじゃないのか?(9巻)


何かを残さなきゃ生きてるイミがないなんて
そんなバカな話あるもんか
生きててくれればいい
一緒にいられればいい
オレはもう
それだけでいい(9巻p.169)


才能、才能、才能
そーやってみんなヒトを勝手に
好いたり憎んだり恨んだり・・
あげくに黙って離れてゆく(10巻p.38)


ありったけの
ありったけの幸せを
あなたに(10巻)

[amazonjs asin=”B00BXWDJL6″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”ハチミツとクローバー コミック 全10巻完結セット (クイーンズコミックス―コーラス)”]