アンダーカレント(豊田徹也/講談社)
とてもキレイで細かいタッチの、繊細な絵。初期の吉田秋生の絵によく似ていると思った。
微妙な表情の描き方がものすごく上手く、美しいのだけれど、それでも、なんとなく全体としてシンと冷えた印象を与えるのは、主人公の目に生気がないからだろうと思う。元気に笑っていても、心を映したその目には気が宿っていない。
この「アンダーカレント」というタイトルは絶妙なネーミングだ。表面上は何事もなく平穏と暮らしているように思える人々の中にも、その一つ下の層で何が流れているのかは、誰にもわからない。
それは目に見えないものであるだけに、当人がひたすらに隠し通せたとすれば、そこにどれほど大きな暗渠が巣食っていたとしても、他の誰にも気付かれないままやり過ごすことは出来る。
主人公の内部に空洞があるにもかかわらず、この物語が救われるのは、その周りにいるサブキャラクターの明るさのせいだ。その影響を受けて、主人公の表情も段々と変化を見せていく。とても良い後味を残す作品だった。
【名言】
彼がどういう人間だったか正直いってよくわからなくなってきてるんです。
彼はいろんなこと私に話してくれましたよ。でも本当に大事なことは話してくれなかったのかもしれない・・。今思い出すと、時々、彼は私に何か重要なことを伝えたがってたように思うんです。ちょっとした表情とか間とか・・沈黙とかそういったものを私も感じてたと思います。(p.202)
ソーシャルブックシェルフ「リーブル」の読書日記