人形の家


人形の家(イプセン/岩波書店)

現代のトレンディドラマで扱ったとしても、全然違和感を感じないだろうテーマの新しさにびっくりした。自分の周りの友達からも、この物語の中で起こったことと非常によく似た話しを時々耳にしてきた気がする。
主人公ノーラと同じようなことを考えて唐突に目覚める女性は、現代にこそますます多くなっているだろうし、この「人形の家」という素晴らしい参考書(過去問題集)があるにも関わらず、その突然のアクシデントの勃発に面くらう男もやはり多くいるにちがいない。
「人形の家」という言葉の意味が最初わからなかったけれど、読み終わってみて、とても秀逸なタイトルだったことに気づいた。
時代や国を越えて、多くの人に共感を与えられることが名作の条件だとすれば、この作品は、間違いなく不朽の名作と呼ぶにふさわしいと思う。
【名言】
ノーラ:あなたは一度も、あたしをわかってくださらなかった。あたしはとても間違った扱いを受けていたのよ、トルヴァル。最初はパパに、それからあなたに。
ヘルメル:何だって!われわれ二人に、誰よりもお前を愛した二人にだって?
ノーラ:(頭を振って)あなた方は、あたしを愛していたんじゃないわ。ただかわいいとか何とか言って、面白がっていただけよ。
ヘルメル:何てことを言うんだ。ノーラ!
ノーラ:ええ、そうなのよ、トルヴァル、パパと一緒にいたころ、パパは何によらず自分の思うことをあたしに言ったわ。だからあたしも、同じように考えた、そして、もし、考えが違えば、あたし、隠したわ、だって、パパには気に入らなかったでしょうからね。パパはあたしを赤ちゃん人形と呼んで、あたしが自分の人形と遊ぶように遊んだわ。それからあたしは、この家へやってきた。(p.160)
ヘルメル:家も、夫も、子供も捨てて!世間が何と言うか、お前はお構いなしなんだ。
ノーラ:そんなこと気にしちゃいられないわ。わかっているのは、こうしなくちゃならない、ってことだけよ。
ヘルメル:何というけしからん!お前は自分の、いちばん神聖な義務を放棄するんだぞ。
ノーラ:何があたしのいちばん神聖な義務だ、っておっしゃるの?
ヘルメル:そんなことまで言わなくちゃならないのか!夫と子供たちに対する義務じゃないか?
ノーラ:あたしには、同じように神聖な義務がほかにあるわ。
ヘルメル:そんなものはない。どんな義務だ?
ノーラ:あたし自身に対する義務よ。
ヘルメル:お前は何よりまず妻で、母親だ。
ノーラ:そんなこともう信じないわ。あたしは、何よりもまず人間よ。あなたと同じくらいにね、少なくとも、そうなるように努めようとしているわ。そりゃ世間の人たちは、あなたに賛成するでしょう、トルヴァル、それに、本で言ってるのも、そういうことよ。でも、あたしは、もう、世間の人の言うことや、本に書いてあることには信用がおけないの。自分自身でよく考えて、物事をはっきりさせるようにしなくちゃ。(p.164)