アルゴリズムが世界を支配する


アルゴリズムが世界を支配する(クリストファー・スタイナー/角川書店)

ウォール・ストリートや、シリコンバレーに、いかに多くの天才的な数学者がかかわり、それによって革命的な成功がもたらされたか、という、とても面白いテーマの本。やや長いが、各章ごとにまったく違う分野の話しが出てきたので、飽きることはなかった。
株売買のシステムをはじめ、コールセンターでの顧客の性格分析や、NASAの飛行士同士の相性判断、最適な薬の投与の判断、など、アルゴリズム化によって、人間にはとても太刀打ち出来ないレベルの成果を生み出すものは数多くある。
それらを、多くの実例を挙げて、物語仕立てで説明しているので、そのひとつひとつのエピソードがとても魅力的で楽しい。とくに、アルゴリズム化の先駆けとなった、金融システムの話しは、非常に調査が綿密で、詳しく描かれていて、アルゴリズムというものの登場が、いかに革命的な変化をもたらしたかということが、よくわかった。
現代でいう、ビッグデータの活用とも密接に関連する内容で、facebookにおけるアルゴリズム開発の重要性など、新しい話題も豊富に盛り込まれている、密度の濃い、良書だと思う。

【名言】
コンピュータ・システムを使ったトレーディングが軌道に乗って4ヶ月後、彼は今までにない大きな利益を上げるようになっていた。その鍵となったのは、他の誰も手に入れることのできない確実なデータが手に入ることだった。そして現代ではもはや常識だが、データを持っているか否かは、起業の命運を左右するほど大きな差を生むものだった。(p.60)

独占的で、高価で、秘密主義の技術というものは、何百年も前から金融界をはじめとするビジネス業界の一部分をなしてきた。だから最速のものを作る技術を持った者は、金を儲けることができるようになる。そしてすでに最速のものを持っている者は、すでに金持ちだ。これは昔から資本主義のささやかな負の側面であり、今にはじまったことではない。(p.195)

プレッシャーのなかにいた三人の飛行士たちの柔軟性と団結力は実にすばらしかった。百時間もの間、二人用に設計された小さなカプセルに座り、休むことなく次々と重大な任務をこなしたのである。このような緊迫した事態にさらされると人はそれぞれ非常に異なる反応をする。一寸先に起こることがどんなに不吉に見えようと、毅然として目の前の仕事を淡々とこなす人もいる。だが、我々の多くは、いや、宇宙飛行士でさえ、身のすくむような恐れから逃れることはできず、弱気になって何もできないか、あるいは死の可能性が高いという恐怖に直面して見境のない行動をとってしまうものだ。(p.264)

1920年代から30年代にかけて機械が製造業に進出しはじめた頃、経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、人を雇うよりも機械が導入されて人間の仕事を奪ってしまうこの「新たな病」を「テクノロジーによる失業」と呼んで警告を発した。しかし現実にはそこまでひどくはならなかったため、彼の警告は大げさだったとして相手にされなかった。しかし、彼の説は単に90年早かっただけなのかもしれない。(p.341)